実話+想像力で問う正義と罪
《あらすじ》1984年、大手製菓会社ギンガの社長が「くら魔天狗」を名乗る犯人に誘拐され身代金を要求される事件が起き、続いてギンガと萬堂を始め食品会社数社に毒物混入するとの脅迫事件が起きた。しかし犯人は特定できず、未解決のまま時効を迎えた。
2018年、京都で紳士服テーラーを営む曽根俊也(星野源)は、父・光雄の遺品の中からカセットテープと英語で書かれた手帳を見つけ、そのテープを再生すると、自分の幼少期の声が流れてきた。
手帳の「GINGA」「MANDO」の文字から、“ギンガ萬堂事件”を調べるうち、脅迫で使われた男の子の声が自分の声であることに驚き、父の知り合いから、殺された祖父がギンガ社員だったことと、父の兄・達雄の存在を聞く。
一方、新聞記者の阿久津(小栗旬)は昭和の大事件、ギン萬事件の企画記事を任され、ロンドンに飛んで、手口が似ているオランダの社長誘拐事件の関係者を取材したが空振りに終わった。帰国した阿久津は、事件前にギンガの株価を扱った記事を見て、犯人は身代金目的でなく、株価操作と空売りという手口を使って利益を得る目的だったのではと考える。
同じ頃曽根は、光雄と達雄の幼馴染を通して得た情報を基にある小料理屋を訪ね、その店で「くら魔天狗」の会合が行われていたと聞く。そのメンバーの一人で元警察官の生島秀樹には中学生の娘・望(原菜乃華)と息子・聡一郎がいて、曽根は望の担任だった教師から、当時生島一家が蒸発したことを聞く。
一方の阿久津は、犯人と目されるキツネ目の男の線から取材を進め、曽根が先に向かっていた小料理屋にたどり着き、やがて阿久津は曽根に出会って、二人は行動を共にすることになる。
生島が関わっていたというヤクザ青木組の建築会社放火殺人事件を調べて、当時中学生の男子が消えていたことを知った阿久津は、その男子が聡一郎だと睨んで跡を追い、中年となった聡一郎(宇野祥平)を見つけ真相を聞いた。
失踪はしたが青木組につかまり、姉の望は逃げ出そうとして殺され、聡一郎も放火事件を機に逃げるが、その後も逃げ続ける苦しい人生だったと泣いた。
曽根は、入院していた母真由美(梶芽衣子)から、テープに録音させたのは自分で、共に反体制運動に関わっていた達雄の依頼によるものだと聞く。
阿久津は達雄を追って再びロンドンに向かい、ヨーク市で書店を営む達雄(宇崎竜童)に会うと、達雄は観念したかのように事件の真相を語った。
賄賂への関与で警察を辞めた生島がロンドンの達雄を訪ね、社会に一矢報いたい達雄は、青木やキツネ目の男らを集めて日本での誘拐計画を練って実行に移すが、計画通りには運ばず内部対立で生島は殺されてしまった。
達雄は、生島の家族を救おうと逃がして、自らは独断で金の入手を画策するが失敗した。達雄は事件は社会への戦いだったと話すが、阿久津から「生島家の姉弟は声の罪を背負って生きた。あなたが子どもたちの人生を壊した」と言われ、その壮絶さに呆然と立ち尽くした。
帰国した阿久津はこの話を記事にまとめて社会的な話題を呼び、聡一郎は母親を探そうと記者会見を開いて、介護施設にいる母親との再会を果たした。
《感想》脅迫事件の身代金受け渡しの指示に自分の声を使われ、本人の意思と関係なく犯罪に加担させられた3人の子どもたちが歩んだその後の人生と、事件の真相解明に挑むストーリー。
1984年のグリコ・森永事件がモデルだが、昭和の大事件の真相より、“犯罪に巻き込まれた家族”という人間ドラマにウェイトを置いている。
“正義のための、誰も傷つけない犯罪”を標榜する犯行の裏で、罪がないのに逃げることを余儀なくされたり、罪の意識に苦しむ子どもたちを生んでいた。それでも正義といえるか、と映画は問う。もしかしたら、事件の陰でこんな悲しい思いをした家族がいたのかも、と思う。
だが、この糾弾が“反体制運動=罪”のように曲解されないか、心配した。活動家とヤクザの混成集団の犯行という設定なのでやむを得ないが、反体制運動の正義と罪、それと反社会組織の罪がない交ぜになっていて、家族を不幸に追い込んだ真の暴力が何なのか、問われることはなかった。
また、正義の裏に隠された罪、もたらした不幸というメッセージは伝わってくるのだが、今掘り起こして何を伝えたかったのか、その辺は漠としている。
人物造形はしっかりしているし、実話をベースに想像力を働かせたサスペンス映画としては面白かったが、それ以上には響かなかった。
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