『コンプリシティ / 優しい共犯』近浦 啓 2018

法か情か、異国青年への思い

コンプリシティ/優しい共犯

《あらすじ》中国河南省から技能実習生として日本に来たチェン・リャン(ルー・ユーライ)は、劣悪な環境の研修企業から逃げ出し、不法滞在の身となる。金と偽在留カード欲しさから窃盗団の仕事を手伝い、遂に手に入れるが、リュウ・ウェイという偽名だった。
山形国際支援協会の紹介で、大石田町の小さな蕎麦屋に住み込みの仕事が決まる。店主の井上弘(藤竜也)が蕎麦を打ち、娘の香織(松本紀保)と店員の小春が切り盛りしていて、チェンの仕事は店の補助と出前配達だった。祖国の母には研修を続けていると嘘をついている。
ある日、出前先で中国語を学ぶ画家の卵、葉月(赤坂沙世)に出会う。北京留学を夢見ている葉月とは、中国という共通話題を通して親しくなり、チェンが北京で蕎麦屋をやるなら手伝うと言う。
一方、香織の弟の弘毅は、父が店をいつ閉めるのか気がかりで、姉と喧嘩をしていた。
チェンと葉月が山形市に出かけてデート中、チェンが財布を紛失し、彼が止めるのも聞かず葉月は交番への届け出に走るが、チェンは自分の身元がばれるのを恐れて逃げた。
葉月から北京留学が決まったと連絡が入る。一方、弘の教えでチェンは蕎麦打ちを始めた。
葉月の誕生日のお祭りの夜、二人が河原で花火大会を見ていると、中国の弟から祖母が亡くなったという連絡が入る。チェンには父がなく、病弱な母と気丈な祖母の暮らしだったため、祖国のことが気にかかった。
葉月が北京に発つ日、駅に見送り「北京で待ってるね」と言われる。
ある日、弘の元に「チェンはいるか」と電話が入り、ファックスで登録証が送られてくる。弘に「君は誰だ?」と問われたチェンは、荷物を持って逃げ出し大木の下で泣くが、行く当てもなく店に戻ると、弘は何もなかったかのように迎えた。
店を休みにして弘はチェンに蕎麦打ちを指導し、二人の仲は一層深まる。弘は幼い頃に北京で撮った写真をチェンに見せ、チェンから北京で一緒に蕎麦屋をやろうと言われ喜んだ。
ある日、山形警察署からチェンに、財布が見つかったので来るよう連絡が入り、程なくして店に刑事が現れた。弘は、チェンを配膳に生かせるから客席で待つよう刑事に話し、作業場で蕎麦を茹でるチェンに金を渡して、「これから先は自分で決めろ」と裏から逃がす。
チェンは自転車で庄内浜まで行き、そこで葉月から映画『君の名は』を観たというメールが入る。チェンは「僕の名はチェン・リャン」とメールを送った。

《感想》中国の貧しい暮らしを脱したいと日本に来た若者が、技能実習生の過酷な労働に耐えかねて逃げ出し、不法滞在を余儀なくされ犯罪に加担するが、情に厚い蕎麦屋店主に出会い希望を見出す、という日中合作映画である。
技能実習生とか不法滞在の問題が背景にあるがそれより、異国で行き場を失ってもがく若者の姿を軸に描いていて、どこか孤独を抱えた老店主と若者が親子のような絆を築いていく様には心揺さぶられる。
純朴な若者を演じたルー・ユーライもいいが、藤竜也の演技が深い。
一度は去った若者が行く当てもなく帰れば黙って迎え、警察に追われれば法を犯してでも庇う。若者から初めて「お父さん」と呼ばれた時は背中で応え、「北京で一緒に蕎麦屋をやろう」と言われ無邪気に喜ぶ。年輪と包み込むような大きさを感じた。
また、是枝作品を多く撮っている山崎カメラマンの映像が素晴らしい。チェンと葉月の二人乗り自転車のシーン、花火大会に浮かび上がる二人のシルエットは特に強烈なインパクトを残す。
残念に思えたのは、若者の転落の原因である技能実習生の実態が抜け落ちていたこと、中国での若者の家族、暮らし、夢を描く回想シーンが度々挿入されて話のリズムが分断されたこと、窃盗団との絡みが中途半端だったことか。
と不満を持ちつつも、初長編なだけに次作に期待したい。

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投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、映画選びのモットーは温故知新、共感第一、ジャンル無節操、です。 映画は時代と人生を映す鏡。心に響くドラマと快楽を求めて、“映画バカ”をやっています。