『浜辺の女』ホン・サンス

男女の機微と人生の深遠

浜辺の女

《公開年》2006《制作国》韓国
《あらすじ》ソウル市内の飲み屋で映画監督のチュンネ(キム・スンウ)は、後輩の美術監督チャンウク(キム・テウ)に、行き詰っているシナリオを書くため西海岸のシンドゥリに行こうと誘う。恋人との約束があると断るチャンウクだったが、自分は残るから二人は1泊して帰れ、というチュンネの言葉に渋々了承した。
若い女性ムンスク(コ・ヒョンジョン)を加えた三人旅が始まる。チャンウクには妻がいながら、彼女との煮え切らない関係を断ち切れずにいて、ムンスクに聞くと、彼とは恋人じゃなくて友達、性関係はないと言う。
三人は避暑地のペンションに宿を取り、酒を飲もうと食堂を訪れるが、従業員の横柄な態度にチュンネがキレて三人は店を出る。ところがチャンウクはチュンネが謝るべきだと言い張り、二人の小競り合いが始まる。
だが酒を飲んでいるうちに怒りは収まり、心地よい浜辺でひとときを過ごし、チュンネがムンスクに「二人のどっちが好きか」と聞くと、彼女はチュンネの方が好きと言う。
その夜、ペンションの部屋で飲みながら、ムンスクのドイツ留学中の男性経験に話が及び、チャンウクは嫌悪の感情を示し、チュンネは欧米人コンプレックスを白状した。
チャンウクがトイレに離れた時、チュンネはムンスクを散歩に誘い、浜辺でキスをして、ペンションの空き部屋で関係を持ってしまう。
翌日、チャンウクとの関係に気まずさを感じたチュンネは、二人を強引にソウルに返した。
そしてムンスクに面影が似ている女性ソニ(ソン・ソンミ)に、インタビューと称して声を掛ける。話をして酒を飲み、やがて関係が出来てしまう。
しかしチュンネに会うために再び避暑地を訪れたムンスクが、二人一緒に部屋に入る様子を目撃してしまい、浮気の現場を押さえようと何度もドアを叩くムンスクだったが、チュンネとソニは部屋に居留守の籠城を決め込む。
二人はスキを見て隣室伝いに部屋を抜け出すが、朝方になるとムンスクはドア前に寝ていた。
ムンスクを部屋に入れた後、チュンネとの痴話喧嘩が続く。
ムンスクは嫉妬とライバル心から、「ソニと寝たのか」「私をまたいで出て行ったのか」と執拗に追求し、チュンネは「その人の“実態”とその人の“イメージ”は違う」と訳の分からない図で説明して浮気云々から話をそらした。
そこにソニから、部屋に財布を忘れたことと、ムンスクに会いたいという電話が入る。会ってみると、二人は恋敵だが気が合うようだった。
チュンネは、以前三本の木に「助けて」と願掛けをしたご利益か、突然何かに憑かれたようにシナリオを書き上げることができて、ソウルに帰った。
残されたムンスクは、ベッド下で見つけた財布をソニに返し、「監督のあなたが好きだったみたい。もう苦しまないで」とチュンネに電話をかけて、車で砂浜を去って行った。

《感想》ホン・サンス作品を苦手とする人は多く、私もその一人だが本作は面白い。ダラダラ恋話が延々続くのは変わらないが、男女の機微が妙にリアルに感じられた。
シナリオ作りに行き詰まった映画監督が後輩を旅行に誘い、彼女連れの後輩と三人で旅行に行くが、その彼女と出来てしまう。さすがに気まずくなり二人を追い返すが、今度は彼女似の女性と新しい恋が始まり、帰ってきた彼女との三角関係に‥‥。
他愛のない展開だが、もう若くない男女の、本気とも浮気ともつかない駆け引きの裏の、欲望のうずき、心の移ろいが響くのである。
面白いのは、彼女のドイツ留学中の男性経験を聞いた時の男たちのリアクション。後輩は嫌悪の感情を、監督は欧米人コンプレックスを示すが、彼女はむしろ“ひけらかしたい”思いに駆られている。
「隠したい、知りたくない」男と、「正直に生きたい」女。これが時代の流れか、一昔前と逆転している。
女の方が、より心が広く自由だ。心の赴くままに愛し、生きたいように生きる。無駄な虚飾は捨て、万事に意味を求めない。無為こそが人生を楽しむ秘訣。そう考えると深遠なものがある。
しかし、その深みも淡々とした男女の成り行き物語の奥にあるので、一筋縄ではいかない。普通の映画の尺度では測れない気がする。

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投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操、が映画選びのモットーです。 映画を通して人生を見つめたい、そんな思いで“映画の旅”をしています。