『鵞鳥湖の夜』ディアオ・イーナン

猥雑にして芳醇、独自の映像世界

《公開年》2019《制作国》中国、フランス
《あらすじ》2012年7月19日、中国南部郊外の駅。警察に追われているチョウ(フー・ゴー)は妻のシュージュンを待っていたが、現れたのは鵞鳥湖で“水浴嬢”と呼ばれる娼婦をしているアイアイ(グイ・ルンメイ)で、「奥さんは来られない」と伝えた。
二人は互いを探り合うが、チョウは重い口を開き、人生が一変した2日前の出来事を語り始める。
7月17日:刑務所から出所したばかりのチョウは、古巣のバイク窃盗団の技術講習会に顔を出していて、指南役のマーがシマの割り振りをしている最中、血気盛んな猫目と猫耳の兄弟が因縁をつけたことから乱闘が始まり、チョウの手下の金髪男が猫耳に発砲して殺気立つ。
仲裁に入ったマーの提案で、両グループは制限時間内に盗んだバイクの数でケリをつけることになるが、その最中、猫目が仕掛けた罠で金髪男が殺され、チョウも胸に銃弾を受ける。チョウはからくも逃げたが、逃走中の視界不良の中、気配を感じて発砲した銃弾でパトロール中の警官を射殺してしまう。
7月18日:警察はチョウを警官殺しの容疑者として、30万元の報奨金を懸けて全国指名手配した。
チョウが動物病院で手当てを受けて、時代から取り残されたようなリゾート地・鵞鳥湖周辺に潜んでいるという情報を受けた警察は、リウ隊長(リャオ・ファン)率いる精鋭チームが捜査に乗り出す。
一方、水浴嬢のアイアイは元締めのホアから、チョウの妻シュージュンを彼のところに連れて行くよう指示を受ける。
7月19日:アイアイは中古家具店で働くシュージュン(レジーナ・ワン)を見つけるが、彼女は妻子を捨てたチョウに愛想を尽かしたと言い、それでも同行に応じた。
アイアイとシュージュンは待ち合わせの鵞鳥湖のワンタン店に出向くが、チョウは現れず、捜査の手が動き出して繁華街は騒然としてくる。二人は元締めのホア、チョウの手下チャンと合流し、チャンから、チョウは報奨金を妻子に残そうと呼び出したことを聞く。
この待ち合わせを密告したのはシュージュンで、彼女は泣き崩れ、持病の発作を起こしてしまう。
こうしてアイアイは病に倒れたシュージュンの代わりにチョウと会うことになったのだが、捜査の手を逃れるため二人は一時的に別行動をとる。
7月20日:鵞鳥湖で落ち合ったチョウとアイアイは、ボートの上で刹那的に結ばれる。アイアイは集合住宅の鍵をチョウに渡し、15分後に来るよう言って去るが、約束の時間にその部屋で待っていたのは猫目と猫耳の兄弟だった。
大乱闘の末、二人を倒して逃げたチョウは、再びアイアイを見つけ出すと二人で食堂に寄るが、会計をする素振りで席を立ったアイアイは再び戻らなかった。外には警察の網が迫り、追い詰められたチョウは遂にリウ隊長の銃弾に倒れる。通報したのはアイアイだった。
後日、アイアイは報奨金を受け取って、待ち合わせたシュージュンと笑みを交わしながら歩き、それをリウ隊長は陰から見送った。

《感想》バイク窃盗団幹部の男は、内部抗争の末に警官を誤って射殺し追われる身になるが、多額の報奨金が懸けられたため追うのは警察だけでなく、報奨金狙いの窃盗団も絡んで激しいバトルを繰り広げる。男は妻子のために自身の報奨金を残そうとするが……。
蛍光色に彩られたその映像は、どこか妖しくスタイリッシュで、独自の美学に貫かれた映画的雰囲気を醸し出している。
そしてノワールらしく淡々と緊迫感に包まれて展開するのだが、フッと気を抜いたような遊び心が現れる。
暗闇の中で底だけ光るスニーカー、花瓶から女が首を出して歌うジュークボックス、ディスコ音楽に合わせて踊る緩いダンス、射殺した犯人の前で記念写真を撮る警官等々。映画ネタ的アイテムに満ちている。
舞台は、急速な経済発展と近代化がなされた中国で、時代から取り残されたように猥雑な飲食店や老朽化した集合住宅が立ち並ぶ、鵞鳥湖という街。背景には社会の底辺で生きる人たちの現実や閉塞感が織り込まれ、エンタメ性、芸術性に加え、社会派の側面が見え隠れする。
筋は粗いが、濃厚で芳醇な映像世界が強く印象に残る映画。
難を言えば、登場人物が多くて、警察と窃盗団、敵と味方の見分けがつけにくく、混乱しがちなこと。その混沌とした世界が魅力でもあるのだが。

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投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操、が映画選びのモットーです。 映画を通して人生を見つめたい、そんな思いで“映画の旅”をしています。