二人の母、それぞれの葛藤
《あらすじ》都会に暮らす栗原清和(井浦新)と佐都子(永作博美)夫妻には、一人息子で幼稚園児の朝斗(佐藤令旺)がいるが、ある日、幼稚園から朝斗が友達を遊具から突き落としてケガをさせたという連絡が入り、ママ友関係に悩む。
【回想】かつて二人はなかなか子どもが出来ずに検査をして、清和が無精子症と判り、不妊治療のため毎月札幌まで通っていたが、それに疲れた頃、養子縁組について紹介するテレビ番組を見て、紹介された団体「ベビーバトン」の説明会に参加した。
そこで代表の浅見(浅田美代子)から、「就学前に真実告知義務があって、子どもには親を選ぶ権利がある」など制度の説明を受け、参加の意志を固めた。
そしてある日、浅見から赤ちゃん誕生の知らせが入り、団体がある広島の島に向かった。そこで赤ちゃんに対面し、まだ幼さの残る生みの母に会って礼を言い、女性から手紙を受け取った。
【現在】最近何回か無言電話を受けていた栗原家に、「片倉ひかり」と朝斗の実母の名を名乗り、「子どもを返すか、お金を。さもないとばらす」と脅迫の電話があって、話し合おうと相手を自宅に招くことにする。
夫婦して会ったその女性は、荒んだ風体と容貌で、二人が記憶している片倉ひかりではなく、誰かが名を騙って脅迫に及んだものと思い込む。
【回想】奈良県の田舎町で暮らす中学三年生の片倉ひかり(蒔田彩珠)は、バスケ部の男子同級生に告白されて交際を始め、やがて互いに思いを募らせた二人は男子の部屋で結ばれた。
ところが、体調不良から母に付き添われて病院に行って妊娠が発覚し、しかも中絶が出来ない時期になっていると知り、母親は泣き崩れた。
両親はひかりに、子どもは特別養子縁組制度で手放すことにし、当面は病気療養の名目で学校を休んで寮に入ることを命じた。
ひとり広島にやって来たひかりは、海辺の一軒家で出産までを過ごすことになり、そこでさまざまな理由から望まぬ妊娠をした女性たちに出会った。
出産後、奈良に戻ったひかりはすっかり心が荒み、家族とも溝ができて、居場所を失ったひかりは再び島に向かった。そこで自分の子ども「朝斗」の住所等の情報を見つけた。
ひかりは朝斗が住む横浜で新聞配達をしていて、その販売店に新しく入って来た女性・ともかと同居生活が始まり、二人の仲は接近した。ところが、ともかが勝手にひかりを保証人にして借金をして逃げてしまう。
借金取りに脅迫されたひかりは、どこかから金を工面して返済した。
【現在】清和と佐都子から「あなたは誰?」と問われたひかりは、泣き崩れて「私は母親じゃない」と詫び、朝斗には会わず逃げるようにして帰る。
栗原家にひかりを捜して警察が訪れる。写真を見せられた佐都子は「この人を知っている」と答えた。
佐都子はあの手紙を取り出し、消されていた「なかったことにしないで」の文字を見つける。ひかりの心の叫びに気付いた佐都子は彼女を捜し回り、朝斗に「あなたを産んだ広島のお母ちゃんだよ」とひかりを紹介した。
《感想》望まない妊娠をした女子中学生が、子どもに恵まれない夫婦に特別養子縁組の形で赤ちゃんを譲り渡すが、出産後の少女に対する家族の態度は冷たく、居場所もなく行き詰った少女は子どもをネタに脅迫行為に及ぶ。
脅迫者が少女本人か否かがミステリーの味付けになって、後半は些細な性のつまずきで人生が狂ってしまった少女の痛みを軸に、ここまで少女を追い込んだ無理解な家族や、底辺に生きる少女たちのドラマになる。
そんな少女の心の叫びや、前半の母親になり切れない養母の苦しみ……家族の絆と親であることの葛藤を描いた力作だとは思う
それぞれの思いは理解できるのだが、二つの物語がうまく噛み合わず、エピソードが散らかり過ぎて、曖昧なメッセージに終わった気がする。
養母が少女を“生みの母”として子どもに紹介し、二人が曖昧に微笑むラストシーンには、何となく温かな感情が流れてウルッとするところだが、この先、少女に救いの道はあるのか、何の希望も見えず切なくもあった。
また、特別養子縁組制度においては、実親と養親の情報は厳重に管理されて互いに知ることはなく、ましてや当事者の面接などあり得ない。ミステリー創作上の便宜的な展開と解釈しているが、実際の現場はもっとデリケートなはずなので、誤解を生まない配慮が必要かと思う。
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