『ぶあいそうな手紙』アナ・ルイーザ・アゼヴェード

言葉を通して描く愛の物語

《公開年》2019《制作国》ブラジル
《あらすじ》ブラジル南部の町、ポルトアレグレに住むエルネスト(ホルヘ・ボラーニ)は、78歳の独居老人で、サンパウロに暮らす息子ラミロ(ジュリオ・アンドラーヂ)は目が不自由になっている父を心配し同居しようと申し出るが、エルネストは受け入れようとしない。
そんなエルネストの元にルシアという女性から1通の手紙が届くが、彼には字が読めないため、手紙の封が切れずにいた。
ある日、エルネストは犬を連れた若い娘ビア(ガブリエラ・ポエステル)と些細な揉め事がきっかけで出会い、部屋で話をした。彼女はエルネストの上階に住むベラ夫人の姪で、犬の世話をしているという。しかし、彼女が帰ると部屋の鍵がなくなっていることに気付く。
エルネストの家には、クリスティナというハウスキーパーが出入りしているが、彼女にはスペイン語で書かれた手紙が読めず、そこでビアに手紙を読んで欲しいと頼む。ルシアの手紙は、夫のオラシオ死去の知らせだった。
ビアはエルネストの外出中を狙って部屋に入り、本やお金を盗んでいたが、エルネストは気付いていながら咎めようとはしなかった。
ある朝、エルネストは犬を連れたビアと一緒に散歩し、手紙の返事を書いて欲しいと頼み、タイプライターは苦手という彼女に、エルネストが手紙を口述しビアが代筆して返事を書く。エルネストの硬い文案を、率直で情愛を込めるよう指導しながら。
ビアと会う約束をした日、ビアが来ないのでベラ夫人を訪ねると、彼女は姪ではなく単なる犬の散歩係で、素行が悪いのでクビにしたという。
その後、またルシアから手紙が届いたが、ビアがいないのでそのままに過ぎ、ようやくビアがやって来た。しかし目には青あざがあり、元カレのグスタボに借金のことで暴力を振るわれたらしい。
ビアはルシアの手紙を読んであげて、本とお金を盗んだことを詫びる。エルネストは、しばらく息子の部屋に寝泊まりさせることにして合鍵を渡した。
時には二人で「抒情詩テロ」の集会に参加し、部屋で踊ったりもした。元カレのグスタボが訪れると、玩具の拳銃で追い返した。
そしてエルネストはビアの借金返済のため、息子ラミロに嘘をついてお金の工面を依頼する。後日、ラミロが訪れると、自分の部屋にビアがいることに驚き、お金を置いてホテルに向かった。
そんな折、隣室の友人ハビエルの妻エルビラが突然亡くなる。ハビエルは子どもと同居するため、この地を去った。
エルネストは決意する。出て行くというビアを引き留めて、最後の手紙を書いてくれるよう頼んだ。
それは息子ラミロに宛てたもので、これまで息子への愛を口にしたことがなかったエルネストだったが、手紙は息子への愛に溢れていた。
続けて「残された時間を、かつて同じ時間を過ごし、同じ思い出を持つ人と過ごしたい」と記されていた。
ビアには住み続けるよう言い残し、ルチアのいるウルグアイに向かった。

《感想》老境にあって目が不自由なエルネストは、息子の負担になりたくない思いから独居を続け、そこに孤独と非行と借金を背負った若い女性ビアが転がり込んできた。
そのきっかけは、かつての友の死を知らせるその妻ルシアからの手紙で、代読と代筆を引き受けたビアは、エルネストとルシアの間に通う秘かな愛を感じ取り、ビアの助言によって二人は愛を募らせていく。
ビアの言葉に対する若い感性は、エルネストの正直な気持ちを引き出し、やがて父と息子のこじれた関係を修復させ、彼に芽生えた“後悔したくない”思いがルシアへと向かわせる。
一方ビアは、彼女が犯した罪を赦し大きな愛で包み込んでくれたエルネストによって孤独地獄から救われる。
また、本作における言葉は、思いを伝える手紙だけでなく、「抒情詩テロ」のストリート集会のように、言葉が自身への鼓舞や高揚感を生んで、それが人間の生命力に繋がっていることも感じさせる。
言葉を通して育まれる愛の物語、人生賛歌である。
それにしても、何と爽やかで未来を感じさせる終活か、とも思った。このラテン的とも思える恋愛観は、何かとしがらみの多い我が国では無理だろうな、と羨望も抱かせる。
全編に流れるブラジルらしい郷愁に満ちた音楽が、しみじみとした情感を醸し出していた。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操、が映画選びのモットーです。 映画は時代と人生を映す鏡。心に響くドラマを求めて、“映画の旅”を楽しんでいます。