『召使』ジョセフ・ロージー

青年貴族と召使の隠微な愛憎

《公開年》1963《制作国》イギリス
《あらすじ》ロンドンの高級アパートを借りたばかりの青年トニー(ジェームズ・フォックス)は、召使志望の中年バレット(ダーク・ボガード)の訪問を受け、早速住み込みで料理と家事全般を任せることにする。
トニーはアフリカの奥地に都市を建設する仕事をしていて、帰国したばかりの今は仕事をしていないが、貴族階級に属しているため、召使を雇った余裕ある暮らしができるのだった。
バレットは、職人に命じて部屋の内装工事を行い、食事や身の回りの世話を手際よくこなし、トニーは大助かりだった。
しかし、時折訪れる婚約者のスーザン(ウェンディ・クレイグ)はバレットを毛嫌いし、クビにするよう言うが、それは無理な要求というもの。
やがてバレットは妹のヴェラ(サラ・マイルズ)を手伝いとして呼び、アパートの1室に住まわせる。
ある日、二人の田舎の母が病気とのことでバレットが帰省し、ヴェラとトニーが二人だけのとき、トニーは誘惑するヴェラの色香に負けて、関係を持ってしまう。もちろんスーザンには内緒だが、実は彼女はバレットの妹ではなく婚約者だった。
トニーが留守の時はバレットと遊び、トニーから求めがあれば彼とも情交を結ぶヴェラだったが、ある夜、バレットと二人の仲睦まじい姿を、帰宅したトニーとスーザンに見られてしまう。
二人の関係を知ったトニーは二人にクビを言い渡すが、トニーは浮気を暴露され、トニーとスーザンの間にもヒビが入る。二人が出て行ってからは、荒れ放題の部屋で一人きりで過ごすトニーだった。
ある日、昼間のパブでトニーとバレットが顔を合わせる。バレットは、裏切ったことを詫び、ヴェラと別れたのでもう一度使って欲しいと頼んだ。トニーは内心喜んで彼を再び雇い入れる。
しかし二人の仲はもはや主従とはいえず、対等の同居人のようになる。無能な主人を前にバレットの態度は横柄になり、命令する召使に対して感謝しおもねるトニーだった。主従関係は逆転していった。
二人はボール遊びやかくれんぼなどをして無為な日々を過ごした。
やがてトニーが一人きりの時、トニーの健康状態を心配してスーザンが訪れ、間もなくバレットが、ヴェラや町で拾った女たちを連れて帰り、パーティが始まる。
バレットは女たちと遊ぶつもりだったが、スーザンの存在が水を差し、彼女たちを追い出してしまう。スーザンはバレットにキスを求め、突然怒りを露わにバレットに平手打ちして部屋を出て行った。
残されたのは、支配者として振る舞うバレット、高笑いするヴェラ、虚ろな表情のトニーだった。

《感想》貴族出身で他人任せに育った青年トニーが、有能で狡猾な召使バレットの策略にはまって堕落していく物語。そう思い込んで観ていたらあるシーンで、裏に隠された秘密の匂いに気付いた(やや遅い気もするが……)。
バレットと女中ヴェラが去り、ヴェラが使っていた部屋で泣き伏すトニーの後ろに貼られた筋肉隆々の裸の男の写真。そうか、バイセクシャルだったのか。
その気づきは、トニーとバレットの仲がフレンドリーになった後、互いに「軍隊で同じような感情を持った」という会話で確信したのだが、そう思うと、遡って出会いの頃から何となく怪しげな空気が漂っていたような。
バレットはトニーの婚約者スーザンとことごとく対立していたし、トニーもスーザンよりバレットへの思いが強かったようで、みな腑に落ちる。
ところでバレットの狙いは何だったのか。当初は、トニーがスーザンと結婚したら自分は職を失うので、ヴェラの色仕掛けを使ってでも阻止すること。やがて自分に好意を寄せ依存し切っているトニーとの関係で優位に立ち、トニーを我がものにすること、に変わっていく。全て思い通りに運んだ。
同性愛者二人が狂喜して遊ぶ様には、二人にしか分からない世界で遊ぶ愉悦と、深い絶望と悲壮感が合わさっているようで、どこか堕ちんとする強い意志のようなものが感じられる。
そして、貴族階級に対する庶民の逆襲と、同性愛というマイノリティの生き辛さの反動を重ねて描いている気もする。
不可解な点が多く、共感度ゼロだが、表面の下剋上的ストーリーの奥に多くの謎が潜んでいるようで、奥深い。
そんな隠微な世界を、格調高く描いたモノクロの映像が素晴らしい。

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投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操、が映画選びのモットーです。 映画は時代と人生を映す鏡。心に響くドラマを求めて、“映画の旅”を楽しんでいます。