『はちどり』キム・ボラ

思春期少女の成長を見据える

《公開年》2018《制作国》韓国
《あらすじ》1994年のソウル。14歳になる女子中学生のウニ(パク・ジフ)は、餅屋を経営する両親、兄、姉と集合団地に暮らしている。韓国は空前の経済成長を迎え、繁忙期には家族総出で店を切り盛りしていた。
商売に忙しい両親は、子どもたちの心の動きに向き合う余裕はなく、家では父の言うことが絶対で、口を開けば厳しい説教という毎日だった。
長男の兄デフンは親の期待を背負ってソウル大学を目指して勉強に励んでいるが、そのストレスやプレッシャーからウニに暴力を振るい、姉のスヒは自己評価の低さから、親に内緒で家を抜け出したり、ボーイフレンドを部屋に入れたりしている。
学校に馴染めないウニは、休み時間はいつも寝て過ごし、漢文塾の友達で親友のジスクと遊んだり、ボーイフレンドのジワンとはデートしたり喧嘩したり、最近は後輩女子のユリから慕われ告白もされた。
ウニにとって学校も家庭も楽しい場所ではなく、塾友達のジスクとは勉強より絵を描いて遊ぶのが日課で、時にはカラオケやディスコに行き、隠れ煙草を吸い、万引きでつかまったりして、学校からは「不良」と認定されている。
そんなある日、漢文塾に新しい女性教師ヨンジ(キム・セビョク)が現れる。大学休学中と言い、勉強の教え方も丁寧で優しく、どこか不思議な雰囲気を漂わせていた。ウニは、自分の話に初めて耳を傾けてくれる大人に出会い、ヨンジに心を開いていく。
そんな折、ウニは首元にできたしこりが気になって病院に行き、医者からもっと大きな病院で検査するよう言われ、検査の結果、手術をすることになる。
入院中のウニを見舞いに来たヨンジに、ウニは兄に殴られていることを告白し、ヨンジは「殴られたら立ち向かえ。黙っていてはダメ」と静かに力強く励ました。
ところがある日、突然ヨンジが塾を辞めてしまい、ウニは塾長に先生は何で辞めたのか詰め寄るが、明確な答えはなかった。
そして10月、ソンス大橋崩落の事故が起きる。それは姉がいつも乗るバスが橋を通過する時間帯だった。幸い、姉はバスに乗り遅れて無事だったが、ほどなくして、ウニの元にヨンジから一通の手紙とスケッチブックのプレゼントが届く。
後日、ウニはヨンジの実家を訪ね、ヨンジの母から彼女が崩落事故で亡くなったことを聞いた。橋の崩落現場を見に行き、ヨンジからの手紙を読み返す。「正しい生き方って何か、よく分からない。でも世界は不思議で美しい」とあった。

《感想》14歳の少女ウニは、家庭では抑圧され疎外されて居場所がなく、学校や友達との間でもうまく信頼関係が作れずに孤独な思いを募らせていたが、塾教師ヨンジに出会い、親身に話を聞き寄り添う彼女に導かれて、ありのままの自分を受け入れていく。
映画の背景は民主化と経済成長によって著しい変化を遂げる韓国だが、様々な出来事に直面して思い悩む少女に当時の社会情勢が重ねられて、「はちどり」のように軽やかに飛んでいるようだが実は必死に羽ばたいている、そんな様子が描かれる。
本作が長編デビュー作という制作当時30代の女性監督は、影響を受けた監督としてエドワード・ヤンとイ・チャンドンをあげている。
セリフによる説明を極力排した極端な省略技法も影響の一つか。私の感性は必ず伝わるはずという自信と、突き放すような描き方にしたたかさのようなものを感じた。
「?!」と感じながら反芻するうち納得させられるシーンが多々あった。
ウニが母親の姿を見て何度も呼ぶが振り向いてもらえないシーン、妹が事故を免れ無事だった夜の食卓で兄が突然号泣するシーン、等々。
特に日頃の鬱屈した感情を爆発させるシーンが印象に残る。民主化されても根強く残る家父長制、男尊女卑、権威主義の支配や抑圧への反動なのだろう。
監督自身の思い出をモチーフにしているらしいが、14歳の少女の思いを真っ直ぐに見据え、繊細で静謐で瑞々しい秀作だと思う。
パク・ジフの透明な眼差しと、キム・セビョクの柔らかな言葉に惹き込まれる。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操、が映画選びのモットーです。 心に響くドラマを求めて、映画の中の人生をあちこち旅しています。