『異端の鳥』ヴァーツラフ・マルホウル

虐げられた少年が見た“戦争と人間”

《公開年》2019《制作国》チェコ、スロバキア、ウクライナ
《あらすじ》少年の流浪の旅が9章で描かれる。
【マルタ】第二次世界大戦下の東欧の片田舎、少年(ペトル・コトラール)はホロコーストを逃れるためマルタおばさんの元に預けられていたが、地元の少年たちと違う髪や目の色をした少年は、村人から虐待を受けていた。
ある朝、少年が目覚めるとマルタは冷たくなっていて、驚いて落としたランプの火から火災になり、居場所を失った少年は当てもなく歩き出した。
【オルガ】たどり着いた村でも少年は、外見から“悪魔”と呼ばれて村人の袋叩きに遭うが、それを止めた占い師の老女オルガの助手になり、怪しげなまじない治療を手伝った。
ある日、高熱を出した少年は、オルガによって首から下を土中に埋められ一晩放置するという荒療治を施され、あわやカラスの餌食となるところを彼女に助けられる。しかし、村人に脅されて川に落ち、流されてしまう。
【ミレル】少年を助けたのはミレルという粗暴な男で、水車小屋に妻と使用人の男の三人で暮らしていたが、妻と使用人の不倫を疑い、懐疑心が頂点に達した時、ミレルは発作的に使用人の目をえぐってしまう。身の危険を感じた少年は、そっと家を出た。
【レッフとルドミラ】次に少年は、鳥飼いの老人レッフと年若い恋人ルドミラに出会うが、ルドミラは淫乱な女で多くの男と関係を持っていた。
ある日、レッフが一羽の鳥にペンキを塗って空に放つと、仲間の鳥から攻撃を受け殺されるのを目撃する。少年は胸騒ぎを覚えるが、やがて村の少年たちをそそのかしたルドミラが、村人のリンチに遭って殺され、レッフも後を追って自殺する。少年は、籠の鳥たちを空に放ち、その地を後にした。
【ハンス】次の村では粗野なコサックの男たちに出会い、無理やり拘留された後ドイツ軍に差し出される。少年の殺害を志願した老兵ハンスによってあわや
銃殺という時、彼は逃げろと合図し、空に向けて銃を撃った。
【司祭とガルボス】次に少年は心優しい司祭に拾われるが、病身にあって余命わずかな司祭は、信者のガルボスに少年を託した。しかしガルボスは小児性愛者で、仕置きと虐待が続き、たまりかねた少年は彼を穴倉に突き落とす。
【ラビーナ】大雪原をさまよい凍死寸前少年を助けたのは、老人と暮らすラビーナという若い女だったが、やがて老人が死ぬと、彼女は少年を性的欲望の対象と見るようになり、まだ未熟な少年に苛立ち辛く当たり始める。
少年も怒りと憎しみを抱くようになり、山羊の頭をラビーナの寝室に投げ込んで、家を後にした。
途中、少年は道行く老人を襲って、衣類を奪うまでになっていた。
【ミートカ】その後少年は戦災孤児としてソ連軍の駐屯地で保護される。狙撃兵のミートカは、少年の面倒を見ながら、力強く生きる術を教え、別れ際に少年に拳銃をくれた。
【ニコデムとヨスカ】ついに戦争が終わり、少年は孤児院に引き取られるが、周囲になじめず、町で少年を罵り殴りつけてきた暴力男を陰で射殺した。
ある日、少年を迎えに男が現れる。ナチスの収容所から生還した父親のニコデムだった。少年は素直に喜べず非難の目を向けたが、父親と帰るバスの中、窓に「ヨスカ」と自分の名を書いた。

《感想》ホロコーストを逃れた少年が、彼を異物とみなす“普通の人々”の差別と迫害に抗いながら旅をする、地獄めぐりのような物語。
原題は『Painted Bird』。白いペンキを塗られ外見の違う鳥は、仲間の群れに放たれても疎外され排除されてしまう、それは人間も同じこと。
異端とは何か、なぜ排除しようとするのか。
少年を迎え撃つ様々な仕打ちには、人間の心に潜む残虐性が余すところなく描かれ、その露悪的と思える過激な描写に目を覆いたくなるが、観終えると別のメッセージに気づかされる。
戦場のヒューマニズム的な要素は極力排除されているのだが、占い師の老女、ドイツ軍の老兵、病身の司祭、ソ連軍の狙撃兵……悪意に満ちた群衆の中で出会う数少ない善意の人々。それらの優しさ、温かさに触れ、どんな劣悪な環境にあっても人は善意を併せ持つ存在であると、少年は教えられる。
荒んだ生活で言葉と心を失くしてしまった少年だったが、これからは名前を持った一人の人間として強く生き直そうとする、そんな希望が見えるラストだったと思う。
歴史上の出来事をベースにしながら、どこか寓話性を感じさせる作品である。
端正でスキのない構図、抒情的で美しいモノクロ映像は、その寓話性をより際立たせている。

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投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操、が映画選びのモットーです。 心に響くドラマを求めて、映画の中の人生をあちこち旅しています。