『魂のゆくえ』ポール・シュレイダー

人を救うのは暴力でなく愛

《公開年》2018《制作国》アメリカ
《あらすじ》長い歴史をもつファースト・リフォームド教会の牧師、トラー(イーサン・ホーク)は、かつては従軍牧師をしていたが、イラク戦争で息子を亡くし、それがきっかけで妻と別れ、今はこの小さな教会で活動している。
ある日、信者のメアリー(アマンダ・セイフライド)から、夫マイケル(フィリップ・エッティンガー)の相談にのって欲しいと頼まれ家を訪ねた。
マイケルは、熱心な環境活動家で、いくら危機を訴えても環境破壊を続ける世界に絶望し、妊娠中のメアリーの出産に、生まれてくる子どもがかわいそうだからと反対していた。そんなマイケルに命の大切さを訴えるが説得できず、帰宅したトラーは自身の健康悪化を感じていた。
トラーが牧師を務める教会は設立250周年記念式典を控えていて、彼の教会を傘下に置く大教会の主任牧師ジェファーズと打ち合わせをするが、そこでメアリーから再度の呼び出しを受け、彼女の家を訪れる。
トラーがそこで見たのはマイケルの自爆ベストで、メアリーはマイケルの自殺とテロを心配していたが、翌朝、マイケルに呼び出されて公園に向かったトラーは、猟銃自殺した彼の死体を見つけた。
マイケルはトラー宛の遺言状を残していた。彼は産業廃棄物の環境汚染地域を墓所に選び、そこでささやかな葬儀を行い、メアリーはマイケルの遺灰を海に撒いた。
しかし、その葬儀がマスコミに取り上げられたことでトラーは、教会の運営金出資者の一人である企業オーナーのバルクから「政治活動に関わるな」と注意され、トラーは「神は許すはず」と反論して、意見は噛み合わなかった。
トラーはマイケルの残した資料整理をするうち、バルクの会社の環境破壊を隠すための政治献金や、教会への多額の寄付の情報を知った。
トラーの健康は悪化し、医師から胃がんが疑われるため節制を告げられる中、次第に自爆ベストによるテロを考え始める。一方、メアリーは出産を前にして心が不安定になりつつある。
そんな二人は、“マジカル・ミステリー・ツアー”という、着衣のまま互いの体を重ね合わせて空中浮遊する儀式を行い、想像の世界の美しい大自然と、環境破壊で汚れた世界を漂うのだった。
その後、自爆テロを本格的に計画し始めたトラーは、メアリーに記念式典には出席しないよう強く言い渡し、その意志を固めていく。
記念式典当日、トラーは自爆ベストを着込んで教会に向かおうとするが、メアリーが出席していることに気付いて気が動転し、ベストを脱いで有刺鉄線を体に巻き付け血だらけになりながら、毒物を飲もうとする。そこへメアリーが訪れ、二人は抱擁し激しいキスをする。暗転してエンド。

《感想》自爆テロという過激な行動に走ろうとした環境保護活動家が行き詰まって死を選んだ。
その死を救えなかった牧師は、務める教会が環境破壊企業の支援を受けているという現実に直面し、経済優先の社会と聖職者の役割で葛藤する。そして、やり場のない感情が牧師を過激な暴力へと向かわせる。
驚きのエンディングをどう解するべきか、しばし戸惑った。
トラー牧師はメアリーの式典参加で自爆を踏みとどまり、有刺鉄線で自らを罰して、毒物で自殺しようとするがそこにメアリーが現れ、激しく抱擁する。
トラーの部屋は施錠されていたはずだから、眼前のメアリーは妄想と解するのが自然である。
1)メアリーへの“愛”という強い妄想に囚われたトラーは、自殺を思いとどまり、メアリーという天使の降臨で苦悩から解放されていく。
2) 自殺を図ったトラーが今はの際に見た幻想で、メアリーとの熱い抱擁の中、高揚感に包まれて幸せに死んでいく。
どちらもキリスト教にいう“救いのある解決”なのだろうが、解釈は各自に委ねるということなのだろう。正直、よく分からない。
ただ一つ言えることは、人を守り救うのは暴力ではなく、“愛”であるということ。だが、愛で地球や平和を守り切れるとは言えず、守るための暴力が入り込む余地がそこにはあって、ジレンマと苦悩が生まれる。
決して面白い映画ではないが、イーサン・ホーク演じる苦悩し葛藤し揺れ動く牧師の姿に惹き込まれる。精神世界をさまよう静かな秀作ではある。

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投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操、が映画選びのモットーです。 心に響くドラマを求めて、映画の中の人生をあちこち旅しています。