『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』グザヴィエ・ドラン

大人から子どもへ“偽りのない人生”

ジョン・F・ドノヴァンの死と生

《公開年》2019《制作国》カナダ、イギリス
《あらすじ》2006年、俳優ジョン・F・ドノヴァン(キット・ハリントン)が謎の死を遂げる。
2017年のプラハ。ジョンと交流のあった若手俳優ルパート(ベン・シュネッツアー)が、彼との文通をまとめた本『若き俳優への手紙』の出版に際し、ジャーナリストのインタビューを受けて、少年時代のルパート【R】を回想し、当時のジョン【J】に思いを巡らす。
【R】11歳の少年ルパート(ジェイコブ・トレンブレイ)は、離婚した母サム(ナタリー・ポートマン)に連れられ、アメリカからロンドンに移住してきた。孤独な彼の楽しみは、アメリカのスター、ジョンの番組を見ることで、テレビの前で狂喜し、ジョンにファンレターを送るが、驚いたことに手書きの返事が来て二人の文通が始まる。
【J】ジョンは女優で恋人のエイミー(エミリー・ハンプシャー)と共にニューヨークに来て、脚光を浴びていた。そして母グレース(スーザン・サランドン)や兄ジミーに再会するが、グレースと親子喧嘩になり、夜の街へ。そこで、ゲイのウィル(クリス・ジルカ)と出会う。
その後、ウィルとの関係は深まるが、二人の関係が明るみに出れば仕事を失い、家族の理解も得られないと、ジョンはウィルと別れた。
ジョンはこのことを誰にも話さず、幼いルパートにだけ伝えた。
【R】ルパートはクラスの授業で、ジョンとの文通について発表する。ジョンは俳優で同性愛者、将来共演するのが夢だと語るルパートに、クラスメイトも先生も信じず、ルパートは証拠の手紙を見せようとするが、いじめっ子に奪われてしまった。
奪われた手紙を取り返すためルパートは、クラスメイトの家に行ってガラスを割って警察沙汰になり、母サムとは大喧嘩になる。メディアにも知られてしまい、アメリカのスターとイギリスの少年の奇妙な文通が話題になった。
【J】ジョンは文通の件、ウィルという男性との関係を周囲から問われ、パニックになったジョンは暴行事件を起こしてしまう。
【R】母サムと喧嘩したルパートは、子役のオーディションを止めろと言う母の意見を無視し、担任の先生に手紙を託して家出した。
その後、先生の訪問を受けたサムは、手紙にロンドンのオーディションに向かうこと、自分の母が理想の女性だと書かれていることを知る。サムはロンドンに向かい、雨の中で再会を果たした。
【J】傷心のジョンはウィルの自宅を訪ねるが、“秘密の存在”であることを拒絶されて去り、喧嘩別れしていた母を訪ねて母や兄と和解するが、それが最後の姿になった。
【R】ニューヨークに戻ったルパートは、しばらく途絶えていたジョンからの手紙を受け取る。そこには「僕たちは誰にも理解できない友情だった。今の僕には眠りが必要だ」と記されていた。
冒頭のインタビューを終えるにあたり、ルパートは「自殺だったか、眠りたくてミスを犯したか、分からない」と語り、ゲイの恋人のバイクで去った。



《感想》夭折した人気俳優は同性愛に悩み、子役の少年はイジメにあっていて、共に孤独と母親との確執を抱えていた。その二人が文通によって心を通わせる物語。
映画は、青年ルパートがジャーナリストに過去を語る回想形式で進み、当時の少年ルパートの出来事、手紙を基にしたジョンの行動が交互に描かれる。
ジョンは、子役であり周囲との関係に悩むルパートに“あの頃の自分”を見て、あの頃の自分に向けて語りかけていたのだろう。一方、ルパートは、ジョンがいう「偽ることのない人生」を胸に、彼が選べなかった人生を生きようとする。憧れの人の「死」を通して、少年が成長していく物語でもある。
LGBT以外に、母子をつなぐ強い絆と、微妙なすれ違いから生じる確執、それが後の子どもの人生に与える影響まで繊細に描いている。
スタイリッシュでありながら情感豊かで、映像への徹底したこだわりが感じられるのは『わたしはロランス』と同様だが、完成度は今一歩及ばない。
脚本に難ありか、“要不要”が整理しきれていないという印象を受けた。
「要」でいえば、なぜ“いい大人”が子どもに心情を吐露したか、が描かれていないこと。「不要」な点は、度重なるインタビューシーンの挿入で、映画の流れが分断され分かりにくくなったこと。
とはいえ、制作当時30歳、10年で8作という多作ぶりは並みの才能ではない。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、偏屈御免。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!