エゴ、嫉妬、狂気が絡み合う壮絶な純愛
《公開年》1991《制作国》フランス
《あらすじ》ポンヌフ橋で暮らすホームレスの大道芸人アレックス(ドニ・ラヴァン)は、酔って大通りで寝転がり車に足を轢かれて骨折するが、通りかかった女性ミシェル(ジュリエット・ビノシュ)の目に留まり、バスに拾われる。画学生の彼女は、眼病で失明の危機にあって、さらに恋人のチェロ奏者ジュリアンに捨てられた辛さから家出したのだった。
そんな出会いの後再び橋に戻ったアレックスは、自分の寝床にミシェルがいて、自分の肖像画が描かれた画帳を見つける。ミシェルの事情を察したアレックスは彼女を橋に住まわせようと、橋に暮らす初老の男ハンス(クラウス・ミヒャエル・グリューバ―)に相談するが、彼は強硬に追い出せと言う。
それでも、アレックスはミシェルと共に暮らし始め、孤独だった彼は徐々に彼女に心惹かれストーカーのように付きまとった。
ある日、地下鉄の駅でチェロの音を聴き、それがジュリアンだと気づいたミシェルは、狂ったように探し回り、電車に乗り込むチェリストの後を追って、彼の部屋のドア越しに拳銃を撃ち込み射殺する。しかし、それは車内でまどろんだミシェルの夢だった。
やがて、ミシェルに放浪生活をやめ前向きに生きるよう忠告し、念願の絵を見るため美術館に連れて行ったハンスは、自ら川に身を投げた。
革命200年のパリ祭で街は賑わい、アレックスとミシェルは酒を飲んで狂ったように踊り、ボートを盗み花火で彩られた川を水上スキーで疾走した。
その後も二人は、睡眠薬を使った窃盗で稼いで遊びまわり愛を深めるが、アレックスは彼女が離れていく不安と嫉妬心を抑えられなくなる。
その頃、アレックスは街で、ミシェルに向けて「治療法が見つかった」と呼びかけるポスターを見つける。地下道一面に貼られたポスターに彼は火をつけ、地上のポスター業者の車にも火をつけて、消そうとしたポスター業者が焼死してしまう。
しかし自分の目が治ることをラジオで知ったミシェルは、アレックスに睡眠薬入りの酒を飲ませて眠らせ、「愛していなかった。忘れて」のメッセージを残して去り、目を覚ましたアレックスは拳銃で左手の指を吹き飛ばした。
そしてアレックスは逮捕され、過失致死罪で3年の禁固刑を言い渡される。
2年が過ぎ、刑務所のアレックスの前にミシェルが面会に現れ、出所する半年後のクリスマスの夜、ポンヌフ橋での再会を約束する。
ポンヌフ橋で再会した二人は、昔のように酒を飲み馬鹿騒ぎをした。帰ると言うミシェルを引き留めるアレックスは、絡み合って橋から落ち、通りかかった砂の運搬船に助けられる。河口のル・アーブルまで乗せてくれるという。
まだ暗いパリに向かってミシェルが叫ぶ「まどろめ、パリよ!」。
《感想》パリのポンヌフ橋で、ホームレスの大道芸人アレックスと、失明の不安と失恋の傷から家出した画学生ミシェルは出会い、恋に落ちた。
ミシェルは別れた元恋人を強く求めながら、アレックスの愛にも惹かれて、自身の気持ちが分からないほど揺れてしまう。
それに比べアレックスの愛は一途で、ミシェルが求めるもの(恋愛の成就や目の完治)が満たされれば自分の元を去っていく、それが分かっているだけに阻止し壊そうと躍起になる。
ワガママなお嬢様と孤独な青年のエゴとエゴがぶつかり合って嫉妬が生まれ、やがて狂気に変わっていく。支え合いながら傷つけ合ってしまう二人の関係は、刹那的だが痛すぎるほどの純愛でもある。
中でも、革命200年のパリ祭のシーンが圧巻。酒に酔い、橋上で狂ったように踊り、河岸が花火で彩られた川を水上スキーで疾走する。
この躍動感とカタルシスは、やがてミシェルが目を治すために去って終わり、3年後の再会でまた盛り上がるのだが、理解し難いミシェルの感情の波で浮き沈みする明暗の落差が激しく、流転する運命にハラハラさせられる。
そして特筆すべきは映像美。特に花火のシーンや、地下道一面に貼られたポスターを燃やしていくシーンは、二人の燃える思いと儚さを象徴するようで、鮮烈なインパクトを残す。
やや寓話的な物語だが、フランス映画ならではの映画的快楽に浸れる。
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