『ブラインドスポッティング』カルロス・ロペス・エストラーダ

人種差別への抗議をラップに乗せて

《公開年》2019《制作国》アメリカ
《あらすじ》カリフォルニア州のオークランド。2か月の刑期を終えた黒人青年のコリン(ダヴィード・ディグス)は、今後1年間の指導監督期間中、社会復帰施設で規則的生活をし、事件を起こさないよう言い渡される。
それから11か月が過ぎ、仮釈放期間満了まであと3日となった。
3日前:同じ引っ越し会社で働き、幼馴染で親友の白人青年マイルズ(ラファエル・カザル)と車の中でおしゃべりしている時、彼が拳銃を持っていることにコリンは慌てる。あと3日で自由の身となることに身を引き締める。
その夜の帰宅途中にコリンは、逃げる黒人青年が追いかけてきた警官に背後から銃で撃たれるのを目撃する。
2日前:朝、コリンはマイルズを迎えに行って職場に向かう途中、昨夜遭遇した事件のニュースを目にし、死亡した26歳の容疑者と警官モリーナの顔写真が映し出された。
その夜、警官が容疑者を射殺する記憶が蘇り、自分が罪を犯して撃たれる悪夢へと変わる。
最終日:コリンが会社に行くと、かつてコリンが逮捕された事件に居合わせた客がいて、その事件の話を連れの友人に語って聞かせた。
それは、コリンとマイルズがバーのドアマンをしていた時、店内の飲み物を外に持ち出した客に注意し、口論になって突き飛ばされたコリンが相手を殴り、側にいたマイルズが更に暴行を加えて、コリンだけが逮捕されたというものだった。
その帰り、コリンがマイルズ宅を訪ねてくつろいでいる最中、マイルズの息子のショーンが父親の拳銃をもてあそぶのを見て皆が驚き、怒った妻のアシュリーに二人は追い出された。家を出た二人は、マイルズの誘いでパーティに出かける。
そのパーティでマイルズは黒人男性と乱闘を起こし、相手を血まみれにしたうえ銃を威嚇乱射した。コリンは銃を取り上げて、マイルズを連れ去りなだめたが口論になって、マイルズを置いてその場を去った。
すると夜道を一人歩くコリンに警察車両がUターンして近づき、ポケットに拳銃を隠し持っているコリンに戦慄が走るが、何事もなく通り過ぎ、コリンは安堵して泣き出した。
家に着いたコリンは心理学を学ぶ女性ヴァルに電話して、以前見た「ルビンの壺」の呼び方について聞くと「ブラインドスポッティング」と答えた。
朝になり、指導監督期間が終了した初日。いつものジョギングで通る墓地に、死んだ黒人たちの亡霊を見る。
そしてコリンとマイルズが仕事先の家に行くと、そこは射殺警官モリーナの家だった。コリンはモリーナを見つけて銃を向け、ラップのメロディに乗せて、殺された黒人の恐怖、人種差別的な警官への怒りを歌った。コリンは泣きそうなモリーナを見ながら、側で見守るマイルズに拳銃を渡して去った。
次の仕事先に向かう二人には、いつもの日常と友情が戻っていた。

《感想》仮釈放期間満了まであと3日となった黒人青年が、警官による黒人容疑者射殺の現場を目撃して、その容疑者と自分をオーバーラップさせて葛藤する。そして差別社会とその上に立つ横暴な警官への怒りを爆発させる。
人種差別、貧富格差、警察不信などを扱った作品は多いが、本作はユニークかつシャープな切り口で、ジャンルに囚われない雑多な要素を詰め込んでいて、その表現の柔軟さが新鮮に映った。
重いテーマだがユーモアがあって、暴力的な描写はリアルだが心の内は繊細に描き、さりげない小さなエピソードに街の人々の喜怒哀楽を盛り込んで、ヒヤヒヤのシーンはサスペンス風で、まさかラップで糾弾するとは思わなかった。
キーワードは「ルビンの壺」で、意図するところは「ブラインドスポット(盲点、死角)」。その絵を見た時、壺か横顔か、どちらか一方しか見えず、同時に両方を見ることは出来ない。
だから、見た目だけで判断するな。黒人という偏見だけで見るな!
黒人青年が射殺警官にラップで叫ぶ「俺は壺で顔だ。両方なんだ」。このシーンは胸に迫る。
それから、黒人の男の子がふざけて怒られて咄嗟に「撃たないで」と手をあげるシーンが印象に残った。母親が教えた自己防衛の言葉だというが、これも衝撃的で、アメリカの深い闇を見た思いがする。

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投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操、が映画選びのモットーです。 映画を通して人生を見つめたい、そんな思いで“映画の旅”をしています。