『フレンチアルプスで起きたこと』リューベン・オストルンド

ままならない人間関係を辛辣に

《公開年》2014《制作国》スウェーデン
《あらすじ》スウェーデンに暮らすトマス(ヨハネス・バー・クンケ)とエバ(リーサ・ローヴェン・コングスリ)夫婦と、子どものベラ、ハリーの姉弟は、フレンチアルプスで5日間の休暇を過ごす。
1日目:スキーをして写真を撮り、何事もなく疲れて眠る。
2日目:一家がレストランのテラスで食事中、目前の雪山で人工雪崩が発生して予想以上の規模でテラスに襲いかかり、エバは子どもを守ろうとしたが、トマスは妻子を置き去りにして一目散に逃げた。
何の被害もなかったが、エバはトマスに不信感を募らせ、子どもたちもふてくされて無口になり、気まずい雰囲気が漂う。しかし、エバの追及にも関わらず、トマスは家族を置いて逃げたことを認めようとしない。
3日目:エバは子どもたちをトマスに押し付け、一人でスキーをする。
トマスの友人マッツが、若い恋人ファンニを連れてホテルに来てその夕食時、エバは二人に雪崩でトマスが逃げた話をして、感情的になって泣き出し、周囲を沈黙させた。
マッツは中立的な立場をとり、エバの話を踏まえながらトマスを擁護した。
しかし、部屋を出た後、ファンニが「マッツもきっと同じ行動をとる」と言ったことから、マッツが腹を立て、このカップルも揉め出す。
4日目:トマスとマッツは二人とも不機嫌で、男同士黙ったままリフトで高所に登り、真っ白な斜面を滑走する。マッツの勧めに従ってトマスは山に向かって大声で叫んだ。
その夜、トマスとエバは再び話し合う。夫婦間で思い通りにならず、ため込んだストレスのことなど。
そして、「自分で自分が許せない」と自己嫌悪に陥ったトマスは、泣き出して情けない姿を晒し、エバは途方に暮れ、起きてきた子どもたちもトマスに抱きついて泣いた。
5日目:深い霧に覆われた悪天候の中、一家はスキー場に出る。トマスを先頭に子どもたちを挟んで、最後をエバが滑るが、エバが途中で姿を消してしまう。トマスは、子どもたちをその場に残してエバを捜しに行き、彼女を抱えて戻った。家族の絆が戻ったかのように微笑む。
一家は帰りのバスに乗るが、曲がりくねった山道の急カーブと、慣れない運転手の様子に、危険を感じた乗客は怯え始め、エバは運転手に文句を言ってバスを停車させ、真っ先に降車した。
皆がバスから降り、荷物を載せたバスは行ってしまい、一行は徒歩で山道を下り始める。マッツとファンニは離れて歩き、エバは歩き疲れたベラをマッツに任せた。エバの気迫で降りてしまった客の間には、この選択が正しかったのか少し後悔の気持ちが見え隠れする。

《感想》家族がスキー場で雪崩に見舞われたとき、妻子を放り出して真っ先に逃げてしまった父親。それ以来、妻は執拗にその事実を蒸し返して夫を責め、子どもたちも不信感を抱き、家族の危機が訪れる。
英語タイトル『Force Majeure』は“不可抗力”の意味らしいが、当初“逃げた”ことを否定していた夫も、突発的な危機が迫って本能的に自分の弱さ、身勝手さが出たことを認め、自己嫌悪から泣き出してしまう。
そんな風に夫を容赦なく糾弾していった妻なのだが、蛇足のようで極め付きだったバスのラストシーンで、本人も思いがけない愚行を演じてしまう。
危険運転にキレた妻のエバがヒステリックに叫び、それに釣られて乗客がパニックに陥る中、子どもを車内に残して真っ先に降り、果ては歩き疲れた子どもを友人に託す有り様。バスには、自由に人生を謳歌している女性一人が残ったが、遠い山道を歩くより彼女の方が正解かも知れない。
危機に見舞われた時の瞬時の判断は、理性より本能に支配されがちで、事の成り行きとか、場の空気にも左右されてしまう。
だから、いがみ合わずに大らかに、というのが映画の教訓か。
コメディに違いないのだが、愉快だが気まずいような、身につまされるシリアスさを秘めていて、人間関係の機微が辛辣に描かれている。

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投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、映画選びのモットーは温故知新、共感第一、ジャンル無節操、です。 映画は時代と人生を映す鏡。心に響くドラマと快楽を求めて、“映画バカ”をやっています。