別れは切なく、人を優しくする
《公開年》2015《制作国》スペイン、アルゼンチン
《あらすじ》カナダに住むトマス(ハビエル・カマラ)は、スペインのマドリードに住む旧い親友で俳優のフリアン(リカルド・ダリン)の元を訪ねた。
フリアンは末期がんで、もはや全身に転移していて、治療を止め、死を受け入れようとしている。
そのことを彼の従妹のパウラ(ドロレス・フォンシ)から聞いての来訪だったが、いきなり「説得に来たのなら帰れ」と言われ、トマスは4日間の滞在を告げ、共に楽しもうと提案した。
フリアンの行動に付き添うトマス。動物病院で、自分の死後の愛犬トルーマンについて獣医師に相談し、かかりつけ病院では、主治医に抗がん剤治療をしないと伝えた。
その夜、フリアンは自ら出演している舞台の仕事をし、トマスとパウラはその舞台を鑑賞した。その深夜、ホテルで寝ているトマスの元にフリアンから電話がかかり、彼が語る「死」の話をトマスは静かに聞いた。
2日目:朝、フリアンが愛犬トルーマンを連れてホテルを訪れ、里親候補のレズビアン・カップルの家に出向き、トルーマンを一晩預ける。
その後、葬祭会館を訪ね、棺や骨壺、埋葬方法など葬式について相談する。
その夜も、舞台に出演したフリアンだったが、終演後に劇場支配人から解雇を告げられる。
3日目:離婚した元妻との間に息子がいて、明日が息子の誕生日であることを思い出したフリアンは、トマスと共に、オランダ・アムステルダムに住む息子の元を訪ねる。
息子の恋人も同席し、フリアンは病気を打ち明けようとするが出来ずに、別れ際二人は強く抱き合った。
4日目:レズビアン・カップルからトルーマンの引き取りを断られ、次の候補のマダムに当たるが人柄に難ありとトマスが反対した。
帰宅途中、フリアンの元妻に再会し、元妻から息子には父の死が近いことを伝えてあると聞かされ、昨日の息子の強いハグの意味をフリアンは理解した。
三人で食事中、安楽死の話をするフリアンに怒ったパウラが部屋を飛び出し、外でまた偶然トマスに出会う。二人はフリアンを失う悲しみ、抑え難い感情、生きている実感を確かめ合うかのように激しく体を重ね、号泣した。
帰国日:空港に着いた三人。フリアンは、トマスに内緒でトルーマンの渡航許可を取っていて、その書類を渡してトルーマンをトマスに託した。トマスは何も言わず受け取り、出国手続きへと向かった。
《感想》末期がんの宣告を受け、抗がん剤治療を止めると決意したフリアンの元に、遠方から親友トマスが訪れ4日間行動を共にする。
死を前にした男の課題は山積するが、最大は「老いた愛犬トルーマンの里親を探す」ことと、「疎遠になった息子に自分の病状を伝え、別れを言う」こと。
フリアンは哀しみを内に秘めて明るくワガママに振舞い、トマスはワガママに振り回されながら、その思いを受け止めて寄り添う。
終活において、最期まで自分自身でありたい、人に迷惑をかけたくないというのは誰しもの思いだが、それを受け入れ寄り添う難しさを、重くなり過ぎないようユーモラスに、繊細に描いている。
軸になる話ではないが、レストランでのエピソードが印象に残った。
疎遠になった友人夫婦に出会って気づかぬふりをされるシーン。死を前にした人に対すると、周囲は無意識に気遣いと緊張を強いられ、そこに思いが及ばない本人との間に気持ちのすれ違いが生まれるのか。
また、かつて迷惑をかけた知人から見舞いを言われ、改めて謝罪し和解するシーン。死を前にしてやっと“悔いのない別れ”をしようと、人は素直になれるのかも知れない。
いずれも、死がもたらす微妙な心理変化を描いていて、その鋭く細やかな洞察力に感嘆した。
病気治療の詳細は描かず、あくまで軽妙さを保った物語展開がいいし、いろいろ考えさせられる深みと静かな味わいを持っている。
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