18年の愛憎を描く『ヘンリー・フール』最終章
《公開年》2015《制作国》アメリカ
《あらすじ》父ヘンリー(トーマス・ジェイ・ライアン)が行方不明、母フェイ(パーカー・ポージー)がテロリストとして収監されている息子のネッド(リーアム・エイケン)は、18歳に成長した。
犯罪者の息子と気付かれないよう姓をライフルと変え、引き取られた牧師の家で暮らしている。
そして家族離散の元凶は、反逆罪と殺人罪で指名手配されている父ヘンリーだと信じているネッドは、父親を捜して殺すことを決意する。
手がかりを求めて叔父のサイモン(ジェームズ・アーバニアク)が宿泊するホテルを訪ねると、彼の詩を研究しているというストーカー然の女性スーザン(オーブリー・プラザ)に出会う。
ヘンリーがシアトルにいるらしいと知って、レンタカーで向かうネッドに彼女は強引について来た。
スーザンと面識のあるフェイの話から、彼女はフェイの自伝を書いている大学院生で、精神病歴があることが分かる。
旅の途中でスーザンはネッドを誘惑するが相手にされず、彼の荷物から拳銃を見つけたスーザンは、犯罪を予感して弾丸を抜いてしまう。
やがて二人は製薬会社の研究施設で被験者となっているヘンリーを見つける。
医師に聞くと、ヘンリーは自分を本当の悪魔だと思い込む妄想を抱いていると言い、ヘンリー本人は精神疾患を装っているだけと言う。
ヘンリーを「フェイの自伝」を手伝う名目で連れ出し、途中殺害しようとするネッドだったが、拳銃の弾は抜かれていて実行できなかった。
そのことに怒ったネッドは、スーザンに財布を渡して追い出してしまうが、銀行カードも彼女の手に渡ってしまい、スーザンはヘンリーと共に去った。
二人が一緒に逃げ、しかも拳銃を持っているため、ネッドは後を追った。サイモンからの情報で、彼女はかつてヘンリーが投獄された少女淫行事件の被害者だったことを知る。
モーテルでヘンリーとスーザンは語り合う。スーザンはレイプの被害者ではなく、13歳の自分が望んだこと、そして愛していることを告白する。その後精神の安定を欠いていたことも。その夜、二人は激しく愛し合う。
翌朝、先にヘンリーが部屋を後にし、そこへネッドが訪れる。一旦外に出たヘンリーが部屋に戻ろうとドアを開けた時、ネッドの拳銃でスーザンに撃たれる。ヘンリーはネッドに言う「彼女を救ってくれ」。
部屋ではスーザンが自殺を図ろうとし、それを止めようと果物ナイフを取り上げたネッドが、誤ってスーザンを刺してしまう。
瀕死のヘンリーがネッドに「走れ」と言うが、ネッドは拒否して駆け付けた警官に降伏を示した。
《感想》『ヘンリー・フール(’97)』『フェイ・グリム(’06)』に続く3部作の完結編。隠れた天才詩人とダメ作家の友情を描いた第1作から、第2作では一転、ヘンリーとフェイはテロリストで、「告白」ノートは機密文書になるというスパイサスペンス風の意外な展開になった。
完結編の本作は、第2作の展開を拾いながら、第1作の落ち着きを取り戻した感がある。
第1作から18年、3作それぞれの面白さを持ちながら、改めて3作を通して観ると、各人の成長の物語でもあると分かる。
ダメ男ヘンリーは相変わらず得体が知れないが、ゴミ収集人サイモンは偉大な詩人になり、フェイは自堕落な女から世界に向けて発言できる女へと変わり、18歳になったネッドは父殺しを画策するまでになった。それぞれのアイデンティティ獲得の歴史でもある。
ただ本作においては、他の誰よりオーブリー・プラザ演じるスーザンの存在感が輝いていて、その意味ではギリシャ悲劇的父親殺しの側面より、少女淫行事件の裏に愛が隠れていたという“事件”のインパクトが強い。
スーザンが精神異常のレッテルを貼られ、ヘンリーに通じる“理解されないマイノリティ”を持った存在だからこそ、ヘンリーの「彼女を救ってくれ」の言葉は彼のピュアな愛であると共に、マイノリティの象徴である彼女を救いたいインディーズ監督の思いでもあった気がする。
善良な変人で展開する彼の寓話的世界は、一貫して優しさと滋味に溢れている。
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