『今さら言えない小さな秘密』ピエール・ゴドー

“たかが…されど…まさか”のファンタジー

《公開年》2019《制作国》フランス
《あらすじ》南仏プロヴァンスの村。自転車修理店を営むラウル・タビュラン(ブノワ・ポールヴ―ルド)は、確かな技術で村人から信頼され、愛する妻マドレーヌ(スザンヌ・クレマン)や子どもたちと幸せに暮らしているが、自転車に乗れないという誰にも言えない秘密があった。
父は郵便配達員で彼は補助輪付き自転車でついて回るが、補助輪をはずすとバランスが取れない。乗れなくても自転車は好きで、乗れない理由を探るため分解して調べる熱心さだった。
学校でサイクリングのときは仮病を使ったりするが、ある時、急坂を猛スピードで駆け下り、空中回転して池に飛び込んでしまった。しかし皆には離れ技と見られた。
自転車に乗れないことを父に話すと、父はうなだれ、外に出て雷雨に打たれ、秘密を抱いたまま死んでしまう。
自分の人生ドラマは悲劇と悟るラウルだったが、メカに強かったので、修理店で修業をして店の跡を継ぎ、そこの娘ジョジアーヌに恋をして接近するが、自転車に乗れないことを打ち明けた途端、ふられてしまう。
しかしその後、運命の人マドレーヌに出会い、彼女は両親を自転車事故で亡くしていることから、ラウルはこれ幸いと、マドレーヌのために一生自転車に乗らないと誓って結婚する。
そんなある日、田舎の人々を撮影している写真家エルヴェ(エドゥアール・ベール)が村を訪れる。
ラウルと意気投合し親交を深めた彼は、ラウルの写真を撮ることになるが、妻からぜひ自転車に乗った姿をと注文が出て、これに慌てたラウルは秘密がばれるのを恐れて、エルヴェの仕事場に忍び込みカメラを盗む。後にそのカメラが父親の形見だと知る。
撮影に応じる決心をしたラウルは、遺書を書いて額の中に隠す。
そしていざ写真撮影となり、山道を下るところを撮影しようとするが、エルヴェの合図以前に自転車が走り出し、猛スピードで崖を越えて、彼は自転車と共に空を飛んで崖下に落ちた。
幸い命に別状はなかったが、空を舞う姿が新聞に掲載されたことから村の英雄になってしまった。
この事態に、ラウルはエルヴェに真実を話そうとするが、逆にエルヴェから、たまたま三脚が倒れてカメラが偶然撮った写真で、自分は動く被写体を撮れないと告白される。
妻も自転車練習中の幼い息子の姿から、ラウルが自転車に乗れないことにようやく気付き、二人の間の隠し事は消える。
そして、ラウルはエルヴェに形見のカメラを返して詫び、互いの正直な気持ちをぶつけ合って仲直りをする。

《感想》自転車のメカには強いが乗れない修理屋と、肖像写真は得意だが動態は苦手という写真家の交流が描かれる。
誰にも苦手はあるもの。誰にも言えず、秘密バレの危機を回避するため努力をするが、本人の意に反して誤解され、ヒーローに祭り上げられていく様がユーモラスに描かれ、全体に流れる優しさ、温かな空気感がいい。
子どもがピアノを弾いている家の前で、曲が終わるまで待ってノックする郵便配達員の姿にホッコリし、ここまで気配りできるゆとりある生活がしたいもの、と憧れてしまう。
元ネタが子ども向け絵本だけあって、ストーリーにある種のゆるさが感じられ、妄想や空想に彩られてはいるが、メッセージは大人に向けている。
苦手があってもいいじゃないか。魚が食べられない漁師さん、正座でしびれを切らすお坊さんとか……。ありのままの自分でいいと。
絶望するほど悲観的な運命なんてそうそうあるものじゃなくて、「たかが……」ということを意識するだけで、その後の人生をより豊かにしてくれる。
そんな生きるヒントや勇気を与えてくれる映画であって、いわば大人向け絵本の世界かとも思える。時折ブラックな面も見えて、哀愁も漂っていたりして。
他愛のない話と斬り捨てないで、その絵本的世界に浸ってみると、新たな発見があるかと思う。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操、が映画選びのモットーです。 映画を通して人生を見つめたい、そんな思いで“映画の旅”をしています。