『ノーカントリー』コーエン兄弟

不条理な暴力に迫り来る恐怖

《公開年》2007《制作国》アメリカ
《あらすじ》テキサス州西部。殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)は保安官に身柄を拘束されるが、スキを見て保安官を絞殺して逃走し、ボンベ付きエアガンを使って車を強奪する。
その頃、地元の溶接工ルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)は狩りに出た先で、殺人現場に遭遇する。状況から、麻薬取引のトラブルで銃撃戦になったと思われ、死体のそばにあった札束のトランクを自宅に持ち帰った。
夜になり、運転席で水を欲しがり苦しんでいた男のことが気になり、水を持って現場に戻ったところをギャングたちに見つかり、追跡を逃れたものの、置き去りにした車から身元が割れて、雇い主からトランクの奪還を依頼されたシガーに追われる身となる。
一連の事件の捜査に当たる保安官エド・トム・ベル(トミー・リー・ジョーンズ)は、凄惨で凶悪化する犯罪を嘆きながら、現場に顔見知りのモスの車を見て、彼もまたモスを追うことになる。
危険を察したモスは妻カーラを実家に帰し、自身はモーテルに潜伏するが、トランクにはギャングの発信機が隠されていて、シガーはモスの自宅を訪ねて留守を確認し、受信機を頼りにモーテルにたどり着く。
しかしモーテルには、メキシコ側の追っ手も泊っていて、彼らとシガーが争っているスキにモスは逃走する。
次に潜んだホテルで発信機に気付いたモスは、これを逆手にとって返り討ちしようとするが、シガーとの激しい銃撃戦で共に重傷を負い、モスは国境の草むらにトランクを隠し、メキシコに入って現地の病院に入院する。
入院中のモスを賞金稼ぎのウェルズが訪ね、金と引き換えにモスの命を守ると取引を持ち掛けるが、モスは即答を避け、その夜アメリカのホテルに戻ったウェルズはシガーに殺害される。
その時ウェルズの部屋に電話をかけてきたのがモスで、初めて会話を交わすシガーは、金を渡せばカーラに手出ししないと言うが、モスはそれを断る。
モスは無理をして退院しカーラにエル・パソに来るよう連絡する。カーラはベルに連絡して、シガーは自分の殺害を依頼した雇い主を始末してからエル・パソに向かった。
ベルもエル・パソに向かうが一足遅く、モスは殺害され金は消えていた。
後日、ベルは元保安官の叔父に会い、自分の無力さと引退の意志を伝えた。
母親の葬儀から帰宅したカーラはシガーと対面し、殺すつもりだがコイン投げの賭けで決めようというシガーの提案を断固拒絶する。
その後、カーラの家を出たシガーは車で通りかけた交差点で交通事故に遭う。左腕を骨折し、頭部から流血しつつも、警察が到着する前にその場を立ち去った。
引退したベルは妻に、昨夜見た夢の話をする。

《感想》麻薬取引の金を持ち逃げして逃げるモスと、追う非情な殺し屋シガーのスリリングな攻防が展開し、狂言回しで現代の凶悪化していく犯罪を嘆くのが老保安官ベル。
モスが殺され、自らの無力を感じ引退したベルが夜に見た夢を妻に話す。
「父からもらったお金を無くした夢」と「山越えをして父に置いていかれるが、行く先に父が火を焚いている夢」である。
夢の意味も即座には「?」だが、“お金”はきっと保安官だった父の遺志(正義)で、それを継ごうとしたが父を超えることなく老いた。でも、この先には必ず希望があるはず、といったところか。
原題は「No Country for Old Men(それは老いたる者の国ではない)」。全編に描かれるのは不条理な暴力と狂気、漂うのは恐怖と抗えない無力感である。
増え続ける凶悪犯罪、世に悪意や暴力が横行し、かつてのわが国の正義は影を潜め、もはや老いたる者には理解し難い国になってしまった、という嘆きのように受け止めた。
暴力シーンを支えるハビエル・バルデムの殺し屋が凄い。圧縮空気ボンベ付きのエアガンという見慣れない武器を持って、気味悪い微笑みを浮かべ、明らかに“危ない”雰囲気を漂わせている。
激しい攻防を戦わせた二人の最後がアッケない幕切れだったり、重い展開なのにどこかコミカルだったり、謎の多い不思議世界で、様々な深読みを誘う。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

 

 

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操、が映画選びのモットーです。 映画を通して人生を見つめたい、そんな思いで“映画の旅”をしています。