ゆるく静かに、父の背中に自分探し
《公開年》1992《制作国》アメリカ、イギリス、イタリア
《あらすじ》ビル(ロバート・ジョン・バーク)は恋人と親友の3人組でPC強盗に成功するが、恋人と親友はデキていて二人に裏切られ、わずかな分け前で捨てられる。
一方、ビルの弟で真面目な大学生デニス(ビル・セイジ)は、かつては大リーグの人気選手で、今は国防総省爆破の容疑者として逮捕された父親の面会に来ていた。ところが父は発作で病院に送られたと聞き、ビルと共に病院に向かうが、父はそこを脱走し、行方不明になっていた。
兄弟は父を捜すことにする。母から渡された1枚の写真の裏に記された電話番号の市外局番はロングアイランドらしい。所持金20ドルでバスに乗り、行けるところまで行くことにした。
最初に着いた町でビルは、出会った男のバイクと自分の拳銃を交換してもらうが、男が拳銃をぶっ放したことからビルが強盗の手配犯であることが警察に知られ、兄弟は慌てて父のいるらしいサガポネックへ向かう。
途中で、バーとバンガローを経営する女性ケイト(カレン・サイラス)と、そこに居候するルーマニア人の少女エリナ(エリナ・レーヴェンソン)に出会う。ケイトはバツイチで、元夫は服役していて最近出所したらしく、来るのではないかと怯えている。エリナは癲癇持ちだった。
女好きのビルは早速ケイトに関心を寄せるが、元夫の友人マーティンもケイトに好意を持っていて、マーティンの助けで、電話番号から父の住所が判った。
ビルはケイトの運転でそこを訪ねるが、その家は火事で焼失していた。その帰り道、ビルはケイトにキスをして平手打ちをくうが、ケイトも素っ気なくしながら惹かれ始めていた。
一方のデニスは、エリナと話をするうち、実はエリナが父の愛人で、この地で父と落ち合い国外逃亡を企てていることを知るが、それを知りながらもデニスはエリナに惹かれていった。
その夜、戸外の足音で目覚めた兄弟がケイトの部屋に行くと、エリナの姿が消えていて、デニスは父が呼びに来たと直感する。また、持っていた写真に記された「TARA」がマーティンの船の名前だと聞いたデニスは、すぐに港へと向かった。
港に着くと、マーティン、エリナ、そしてデニスが初めて見る父の姿があった。父は「革命」の講義をしていて、エリナも父に陶酔しきっている。そして、自分は爆弾犯ではないが、楽しいから逃げているという。
デニスは、逃走中のビルを父と一緒に出国させようとバーに戻ろうとするが、途中、売ろうとしたバイクから足がつき、ガソリンスタンドで警察に捕まってしまう。
その頃、ビルとケイトは結ばれていたが、ケイトの前夫ジャックが現れ、その上、ビルに逮捕の手が迫っていた。ケイトは、犯罪者であることを隠していたビルに怒りをぶつけるが、警察が来る前にビルを逃がした。
ビルは港に向かい父と対面するが、結局父たちが出港するのを見送り、ケイトの元に戻る。待ち構えていた警官が取り囲む中、ビルはケイトの胸に頭を預けた。
《感想》父はかつての大リーガーでテロリストという正体不明の人物だが、その父探しの旅に出た兄弟が、旅先で二人の女性に出会う。
父の顔も知らない弟のデニスにとっては、自由奔放に生きる父の存在は、学校で学ぶ以上に“哲学的”であり、それは自分探しの旅でもある。好意を持った女性エリナは何と父の愛人だった。
兄ビルは強盗犯として逃亡の身で、父は自分と同類で身勝手、母を捨てた放蕩を許せずにいて、バツイチの女性ケイトに出会って“人生の目的”を掴む。
兄弟はエリナとケイトに向き合うことで自分を見つめ直していく。
前作『トラスト・ミー』では、少女が“自立”に目覚める様を描いていたが、
本作では男兄弟の“自己発見”を描いている。
登場する女性はどこかミステリアスで、心の揺らぎも複雑だが、それに比べて男は直情的というか、何と計算のない単純さよ。タイトルはそんなところに由来するのか。
そして不思議な魅力を持ったエリナに導かれるように兄弟が加わり、三人で踊るダンスが特に印象的。ゆるくて、どこか愛おしくて、独特の魅力を醸し出している。この空気感が本作の魅力なのだが、心地よいか馴染めないか、大きく分かれるだろう。
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