『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』ニルス・タヴェルニエ

宮殿造りに捧げた頑固な男の人生

シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢

《公開年》2018《制作国》フランス
《あらすじ》1873年、フランス南東部の村。郵便配達員シュヴァル(ジャック・ガンブラン)は妻に先立たれ、一人息子シリルは親戚に預けられたため、一人暮らしになる。シュヴァルは、無口で偏屈な変わり者だった。
村から村へと手紙を配り歩くシュヴァルは、新しい配達先で未亡人フィロメーヌ(レティシア・カスタ)と親しくなり、二人は結婚する。
やがて女の子アリスが誕生し、不得手ながら子育てに関わるようになる。
1879年、配達途中の道で躓いた奇妙な形の石に着想を得たシュヴァルは、畑を潰して突如、宮殿造りを始める。これは娘への愛の贈り物だった。
雪の舞う日も作業を続け、妻には半ば呆れられ、村人からは変人扱いされながらも作業を進めるシュヴァルだったが、やがて彼は成長したアリスに、宮殿を通じて様々なことを教えていく。
1887年、宮殿の外観が出来つつある中、成長したシリルが訪れる。パリの洋裁店に行くという。
一方、アリスは“ヘンテコ宮殿”を作る父親のことでからかわれるが、一途に取り組む父や宮殿のことを自慢に思うようになっていた。
シュヴァルは宮殿建設で新聞に載るが、相変わらず毎日32キロ歩く仕事を続け、勤続30年の表彰を受ける。
そして冬、アリスが重い脳膜炎にかかり、そのまま天国に旅立ってしまう。夫婦は慟哭し、娘の死は、事故で宮殿建設を中断していたシュヴァルを精神的にも参らせ、彼は宮殿作りへの熱意を失っていった。
しかし、宮殿の噂が広まったことで、シリルが二人の孫を連れて訪れ、下の妹はアリスと名付けられていた。そして妻からの激励を受け傷心から立ち直ったシュヴァルは建設を再開する。
その後、シリルが写真師を連れて訪れ、宮殿の絵ハガキを作る。だがそのシリルが亡くなり、また夫婦を悲しみが襲った。
1912年、まもなく完成という時を迎え、彼を献身的に支えてくれた妻フィロメーヌが病で息を引き取ってしまう。「幸せだった」という彼女に、シュヴァルは深い愛と感謝を口にし、家族のための墓所建設を開始する。工事着手から既に33年が経っていた。
1916年、老齢となり震える手で作業するシュヴァルの元に、成長した孫娘アリスとその婚約者が訪れ、この宮殿で結婚式を挙げたいと申し出て、シュヴァルは快諾した。
結婚式当日、今までの人生を振り返りながら、その様子を眺めるうち、新婦アリスの姿に愛娘アリスの幻を見て、静かに目を閉じるのだった。



《感想》フランスの重要建造物に指定され、観光地になった「シュヴァルの理想宮」は、郵便配達員の手で33年をかけて建造された。
そのきっかけが面白い。石につまずき掘り起こしてみると、そろばん玉が重なったような奇妙な形をしていて、カンボジアのアンコールワットがひらめき、娘のための宮殿を造ることに。
その基礎になるのは、趣味である異国の絵ハガキなどから得た多様な文化、山村を歩く仕事で得た自然からの学びで、それに娘が願うであろうおとぎの国が加わり、奇抜な空想めいた世界になっている。
特に建築知識を有するわけでもない主人公が、これだけ強固で美しい建造物を作ったということは、それなりの潜在能力と学習努力があってのことなのだろう。宮殿に刻んだ言葉「目標を成し遂げるには頑固であれ」、然り。
フランスの田舎の風景が美しく、徐々に形作られていく宮殿の映像も見事である。当初、凄いセットを作ったものだと感嘆したが、後に現存する理想宮で撮影し、建設途中の場面はCGで部分消去したことを知り、納得した。
物語は、無口で偏屈で不器用な男が、娘のため、自分の夢の実現のために取り組んだライフワークと、それを支える夫婦愛、家族愛が美しく描かれる。
男には狂気にも似た一途な情熱が宿り、妻にはそれを支える強い意志が見える。何より二人の静かに秘めた愛が感動を呼ぶ。
ただ、娘、息子、妻と次々に亡くす主人公の悲哀、傍には狂気にしか見えない男の執念や生き様、それらがあまりに淡々と描かれていて、ドラマとしてはやや物足りなさも感じた。
とはいえ、人も風景も素朴で美しい、静かな感動作であることに違いはない。

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投稿者: むさじー

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