『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』ポール・トーマス・アンダーソン

石油王がたどった欲望と破滅の道

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド (字幕版)

《公開年》2007《制作国》アメリカ
《あらすじ》1902年のアメリカ西部。石油発掘に成功したダニエル・プレインビュー(ダニエル・デイ=ルイス)は、事業拡大をもくろむ中、事故で仲間を失い、その息子を引き取って、自分の息子として育てようと決めた。
1911年、山師のダニエルは、幼い息子のH・Wを伴って油田探しをしているとき、サンデー牧場に石油が出る兆候があるという情報をサンデー家の青年ポールから得る。
サンデー牧場を訪れたダニエルは、ポールの父エイベル、双子の兄イーライ(ポール・ダノ)と交渉し、採掘権を買い試掘を開始すると、油脈は掘り当てられたが、ある日、爆発炎上事故が起こり、近くにいたH・Wが吹き飛ばされ聴力を失う。
耳が聞こえなくなったことでH・Wは傷つき、精神的混乱からダニエルの家に放火する事件が起きて、ついにH・Wとの暮らしを諦めたダニエルは、彼を寄宿舎学校に追いやってしまう。
ある日、ヘンリーというダニエルの腹違いの弟だという男が現れ、半信半疑ながら、ダニエルは家族として迎え入れ仕事仲間にした。
しかし、ヘンリーの行動に不審な点があることに気づいたダニエルは、彼を問い詰め、実は成りすまし男だったことが分かり、殺して埋めてしまう。
海につながる石油パイプラインを通すために、バンディ家の土地が必要だったダニエルは、バンディと交渉し彼から、イーライが主宰する教会で洗礼を受け、罪の赦しを請うことを条件とされ、それを受け入れた。
イーライの前で「富を得て堕落した。子を捨てた罪人」と告白せざるを得なかったダニエルだが、パイプライン敷設のために耐えた。
やがて、聾学校で暮らしていたH・Wがダニエルの元に帰って来て二人は和解する。一方、イーライは宣教のため町を離れた。
1927年、成長したH・Wは幼馴染であるサンデー家の娘メアリーと結婚する。
事業に成功し、大きな屋敷で一人寂しく酒浸りの生活を送るダニエルに、H・Wは「メアリーを連れてメキシコに行き、事業を起こしたい」と申し出るが、
恩を仇で返されたと激怒するダニエルは「お前は私の子ではなく、捨て子だ」と言い放ち、H・Wは彼の元を去った。
しばらくして、経営困難から金の無心に来たイーライに、ダニエルはかつて教会で侮辱を受けたことを思い出し、彼に「私は偽預言者で、神は存在しない」と同じように叫ばせ、そして撲殺する。
ダニエルは「私は終わりだ」と呟いた。

《感想》タイトルは「いずれ血に染まる」という意味で、旧約聖書からの引用だという。石油王の一代記というより、メインテーマは人間の欲望とか宗教の欺瞞性とか、その辺にあるようだ。
石油の採掘に異常なほどの執念を燃やすダニエルの人生の目的は、成功して財を成すこと。人間嫌いで人間不信の彼だが、養子の息子や偽の弟との関わりなど、秘かに家族の繋がりを渇望していることが窺える。
一方、イーライはカリスマ宣教師で、怪しげな教えを説き、悪魔払いのようなパフォーマンスで信者を惑わしている。
二人は宗教家と無神論者の実業家として出会い、二人の対立は宗教対世俗のように見えるが、実は欲にかられた者同士、似た者同士の対立で、復讐劇のような結末を迎える。
家族を求めながらも得られず、宗教による救いも否定する孤独な男は、最後に新興宗教の欺瞞と対決し、全てぶち壊して自分の人生を清算する。
それは無神論者が宗教に勝利するという構図ではなく、財を成すことのみを人生の目標にしてきた男が、それを達成して得たのが達成感と目標を失った喪失感であって、未来のない虚無が招いた狂気ではなかろうか。
二人の喧嘩はどこか喜劇的で、アイロニカルな味わいを伴っている。
ただ、ダニエルの偏執かつ凶暴な人格はどうやって形成されたのか、その背景が描かれていないので、もがきながら自滅していく苦悩にまでは、今一つ理解が及ばない。
そのダニエルを演じたダニエル・デイ=ルイスの、主人公が憑依したかのような凄絶な演技には惹き込まれるのだが……。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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