親子と恋人……依存から脱け出す物語
《公開年》1991《制作国》アメリカ、イギリス
《あらすじ》妊娠して高校を中退したマリア(エイドリアン・シェリー)が、口論になって怒る父親を平手打ちすると、父は心臓発作で呆気なく死んでしまう。そして母親ジーン(メリット・ネルソン)から父を殺したと責められ、マリアは家を追い出された。
街を彷徨うマリアは、酒を買おうとしたコンビニ店主のセクハラにあい、店先で赤ちゃん誘拐事件に遭遇する。
一方、コンピューター技師のマシュー(マーティン・ドノヴァン)は、仕事上のスキルは持つものの、生き方は不器用で職を転々とし、その日も上司と衝突して工場を辞めた。
家に帰ると、父親ジョン(ジョン・マッケイ)からは暴力を振るわれて罵られ、孤独な日々を過ごす彼は、父が戦場から持ち帰った手榴弾をいつも持ち歩いていた。
そして二人は廃屋で出会い、寝る場所が欲しいというマリアをマシューは連れ帰って家に泊めるが、父親の怒りを買ってしまう。耐えきれず家を出たマシューを、今度はマリアが自宅に連れ帰り、部屋を用意してやる。
彼女に自分と同じ境遇を感じたマシューは、二人で子どもを育てようとマリアに求婚した。
結婚を承諾したマリアは工場で働き始め、マシューも工場に復帰する。しかし、嫌々働くマシューを見てマリアは、“危険だけど誠実”な彼が“鈍い人”になったようで不満を感じる。
そんな中、結婚に反対する母ジーンはマシューと口論になり、ジーンの策略で酔いつぶれたマシューを、マリアの姉のベッドに裸で寝かせ、マリアの誤解を誘い、その翌日、マリアはマシューに黙って中絶手術を受けた。
病院から戻ると、家ではマシューと父ジョンが喧嘩をしていて、親から離れて子育てしようと言うマシューに、マリアは中絶したことを話し、結婚はしたくないと告げる。
それを聞いたマシューは手榴弾を手に呆然と家を出て、後を追ったマリアは彼の勤める工場へと向かった。すると工場は、手榴弾を持って立てこもったマシューで大騒ぎになっていた。
工場内に入り、マリアは手榴弾を手にしたマシューを見つけ、手榴弾を取って遠くに投げると、不発弾と思われた爆弾は少しして爆発し、マシューは逮捕される。
パトカーに乗せられたマシューはマリアを見つめ、マリアはいつまでも見送っていた。
《感想》親と子、男と女という関係に潜む微妙な距離……反目しながら依存していて、抜け出そうとするがままならない。複雑な感情が交錯する。
口論した父が突然死して母から責められるマリアは、家では耐え忍び、外では自我を通し強く生きようとする。
暴力的な父に威圧され、家では従順にならざるを得ないマシューは、外では不器用な危険男だった。
それぞれ親との確執を抱えた二人が出会う。親は子どもに対して従うべき者として期待をするが、子どもはその抑圧から解放されようともがく。
もがく中で二人が結婚に求めたのは、愛よりも尊敬と賞賛といい、互いに支え合おうとするが、気持ちがすれ違ってしまう。
“危険だけど誠実”だった彼が意に反した仕事に臨むうち、彼女には“鈍い人”と映るようになり、妊娠中絶して結婚を求めないという彼女に、彼は絶望して手榴弾を手に立てこもり事件を起こす。
アンハッピーな幕切れではあるが、そこに流れる空気は後味の悪いものではない。大きなものを失った後に、二人に真の自立が訪れたように思えた。
危なくて切ない二人の関係は、ドライなようでありながらピュアな感情に溢れている。
軽く浮遊するような雰囲気だが、重くて深いものが流れている。
そして切なさを笑いで包み込んでしまうような、温かさがある。
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