『サンダルウッドの記憶』マリア・リポル

過去の秘密に涙して知る人の愛

サンダルウッドの記憶

《公開年》2014《制作国》スペイン、インド、フランス
《あらすじ》インド・ムンバイの小さな村。少女ミーナの母親は女児を出産してまもなく亡くなり、親なしに生きていけないと殺されそうになった妹を、ミーナは奪うようにして守り、シータと名付けた。
ところが生活は苦しくなる一方で、妹シータは修道院の保護施設へ預けられ、ミーナは身売りされそうになったところを危うく逃げ出す。
ミーナは富裕家庭のメイドとして働き、その家の娘インディラに字を教わり、その兄のサンジャイとも親しくなる。二人に誘われて観に行ったボリウッド映画にはしゃぎ、サンジャイに言う「ありがとう」。
それから30年。今はボリウッド映画の人気女優になったミーナ(ナンディタ・ダス)は、自身の自伝的映画の上映会場にいて、制作した夫サンジャイに涙ぐみながら礼を言う。過去の暮らしと、幼い頃に生き別れた妹シータを忘れられずにいた。
ある日、シータが暮らしていたムンバイの修道院から連絡を受け、記録から、シータはボンベイの修道院施設に移送されていたことを突き止め、ボンベイの修道院で、スペインのバルセロナに養子として引き取られたことを知って、ミーナはバルセロナまで会いに行くことにする。
一方、妹のシータは、パウラ・ビラ(アイナ・クロテット)という名で、生物学研究者としてバルセロナで暮らしていて、自分がインド生まれで養子であることを知らずに育っていた。
姉だと名乗るミーナの訪問を信じられないパウラは、両親を問い詰め、自分がインド人だという事実に動揺して、養父母に辛く当たってしまう。
しかし、自らのルーツを探る中で、インドに興味を持ち始めたパウラは、バルセロナのインド人街に出向き、ムンバイからの移民青年プラカッシュに出会う。
DVD店に勤める彼から、ボリウッド映画とミーナの魅力を教わり、インド人移民のコミュニティに誘われたりする中で、少しずつ母国との距離が縮まっていき、次第に二人は惹かれ合っていく。
やがて、ミーナの自伝的映画のDVDを観る。そこにいたのは姉ミーナと、守られて生き延びた自分だった。そして、修道院施設を経て、バルセロナの養父母に大切に育てられたことを知り、パウラは養父母と和解することができた。
インド行きを思い立ったパウラは、プラカッシュを伴い、スタジオでリハーサル中のミーナを訪ねる。パウラは「私はシータね」とつぶやき、ミーナと抱き合ってエンド。



《感想》幼い頃に生き別れた妹を忘れられずに探し続ける姉ミーナ。突然、姉と名乗る人が現れ、自分は一体何者なのか、受け入れ難い現実に葛藤する妹パウラ。
パウラは時に苛立って反発し、葛藤し悩むが、やがて悪意なき嘘を許し現実を受け入れていく。幼い生命を守ってくれたのは姉で、今の自分を育ててくれたのは養父母だったと。
パウラにとってインドは記憶にない祖国だったが、ムンバイからの移民青年に出会い、自らのルーツを探る中で、異国にあっても伝統文化を守ろうとするその暮らしぶりに惹かれ、青年との愛を育んでいく。
スター女優を演じるナンディタ・ダスの鋭く深い美貌も魅力的だが、頑なな研究者の顔から、徐々に柔和さが加わり輝きを増してくるアイナ・クロテットの繊細な演技が素晴らしい。
監督も、脚本のアンナ・ソレル・ポントも共に1960年代生まれの女性。
身寄りのない少女二人が女優と研究者に成長するという話は、華美にして出来過ぎの感はあるが、バルセロナで暮らす移民の現実を丁寧に描き、さりげない日常の中の心の機微や移ろいを繊細に描くことで、単なるお涙頂戴映画に堕することなく、深みのあるヒューマンドラマになっている。
また、舞台となるムンバイとバルセロナの風景が美しく、その詩的な映像表現にも目を奪われる。
(DVD化されていないので、動画配信で観ることをお勧めします)

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。