『工作 黒金星と呼ばれた男』ユン・ジョンビン

虚実ない交ぜで描く国境を越えた友情

工作 黒金星と呼ばれた男

《公開年》2018《制作国》韓国
《あらすじ》1992年、南北朝鮮がスパイによる諜報戦を繰り広げる中、韓国軍将校パク・ソギョン(ファン・ジョンミン)は北の核開発を探るため、工作員「黒金星(ブラック・ヴィーナス)」として北朝鮮への潜入を命じられる。
そのため、酒と借金で軍をクビになったと装い、準備を進めて1995年、実業家に扮して中国に向かい、北朝鮮で外貨獲得を担当する対外経済委員会の所長リ・ミョンウン(イ・ソンミン)に接触する。
厳重な警戒の中のビジネスで、北の国家安全保衛部のチョン課長(チュ・ジフン)には疑われ、北のスパイになれと迫られるが断り、強気で物怖じしない態度を貫くパクを、リ所長は「浩然の気(強く屈しない道徳心)」と評価した。
パクが提案したのは北朝鮮国内での韓国企業のCM撮影事業で、当初難色を示したが、金正日との面会までこぎつける。しかし、核開発の実態を探るまでにはいかない。
次は骨董品が眠る遺跡を調査する名目で、核開発が疑われる地域に立ち入るが、目にしたのは貧困に喘ぐ人々の暮らしだった。
そこで、リ所長の部下・キム部長から、北の人々を救いたいと訴えられるが、その会話を盗聴したリ所長から、南北の交流事業の妨げになるような言動は慎むよう告げられる。キム部長は転勤させられたが、パクもリ所長も南北交流を通して双方の発展を願うことでは一致していた。
1997年の韓国大統領選を迎え、北朝鮮に融和的な金大中が当選すれば我が身が危うくなると考えた国家安全企画部は、北の上層部に接触し、北朝鮮の軍事挑発を利用して韓国国民の危機感を煽ろうと目論んだ。
それを南北交流事業の危機と思ったパクは、リ所長と共に金正日総書記に面会し、北の軍部が韓国政府と癒着して横領している事実を訴え、軍事行動を中止させた。
大統領選を前に北の軍事挑発がないため国家安全企画部は動揺し、金大中が大統領に当選して韓国政治は大きく様変わりする。
しかし、国家安全企画部はパクを裏切り者とみなし、韓国のスパイであるとマスコミに流して、北側に始末させようと工作するが、それをいち早く知ったリ所長は、パクに通行証を渡して国外退去させた。
その後、韓国国家安全企画部は、それまでの北朝鮮工作が問題視され、規模縮小の上で組織改編される。
2006年、南北朝鮮が協力してのCM撮影が実現した。その会場でパクとリ所長は再会し、互いに贈り合ったロレックスとタイピンを見せて微笑んだ。



《感想》いわゆるスパイ映画だが、アクションやロマンスはなし、スパイの個人的背景や心情も描かれず、実録路線の緊迫感と、腹を探り合う心理戦で展開する。
韓国政府の対北朝鮮裏工作を描いたり、北の将軍様のソックリさんを登場させたりの面白ネタ満載で、北朝鮮の貧困に喘ぐ国民の惨状まで描いていて、どこまで事実に基づいているのかは判然としないが、「極限まで描く!」という凄さを感じる。日本映画に欠けているのが、この“熱気”なのだと思う。
そして、どこまでが事実なのか、気になってくる。
韓国大統領選の与党勝利のために「権力を失わないためには敵が必要」と、北朝鮮に軍事挑発を依頼していた、という話には驚かされるし、権謀術数を弄して時には敵と手を組む、この政治の裏側の描き方が妙にリアルに映る。
結局、国の意向に背いた南の工作員は、国から裏切り者と見放され、北の政府高官に救われる。南北交流を目指し、命をかけた友情で結ばれた男二人が、夢見た会場で再会し離れたまま微笑するラストシーンには涙腺が緩んだ。
とにかくテンポ良く、細かいカット割りでスピーディに展開する。だが、淡々と描かれ過ぎていることが不満でもあり、二人がそれぞれに背負った使命感に変化が生まれ、葛藤しながら互いに信頼を寄せていく、その様が伝わりにくく、ラストシーンがやや唐突に思えた。

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投稿者: むさじー

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