『恋する惑星』ウォン・カーウァイ

香港の街角の風変わりな恋

《公開年》1994《制作国》香港
《あらすじ》香港の無国籍地帯・重慶マンション周辺と、軽食販売店「ミッドナイト・エキスプレス」を舞台に二部構成で展開する。
【前半】刑事223号のモウ(金城武)は雑踏の中で金髪美女(ブリジット・リン)とすれ違う。
モウはエイプリルフールに恋人に振られ、1か月後の自分の誕生日まで、5月1日賞味期限のパイナップル缶詰を買い漁り、失恋祝いに食べようとする。
一方、金髪女は、麻薬取引の仕事をしていて、仕事を頼んだインド人に裏切られて横取りされ、ほどなく命を狙われた彼女は相手を銃殺し、走り逃れた。
傷心のモウは次に出会った女性に恋をすると決めていて、偶然入ったバーで金髪女に出会い、飲んでホテルに入るが疲れ切った金髪女は眠り込んでしまう。
静かな一夜が明けモウの誕生日の朝。一人ホテルを出てジョギングを始めたモウのポケベルに、金髪女からのバースディ・コールが入る。
その朝、金髪女は裏切った男を射殺し、金髪のかつらを投げ捨てて逃げた。
モウは軽食販売店で、新入りの店員フェイ(フェイ・ウォン)とすれ違う。
【後半】警官633号(トニー・レオン)は、軽食販売店の常連で、スチュワーデスの恋人(チャウ・カーリン)と別れたばかりだった。
ある日、フェイはスチュワーデスが警官に宛てた手紙を預かるが、中には警官の部屋の鍵が入っていて、それからというもの、彼の部屋に忍び込み、少しずつ自分好みに模様替えしていく。
やがて二人は部屋で鉢合わせ。その距離は縮まるものの結ばれることはなく、フェイは「行き先が雨でにじんで読めなくなった日付が1年後の搭乗券(の絵)」を残して、カリフォルニアに旅立った。
そして1年後、スチュワーデス姿のフェイが現れた時、警官はその店の店主になっていて、流れる曲はフェイが好きだった『夢のカリフォルニア』だった。
フェイが元警官に「新しい搭乗券と取り換えてあげる。何処に行きたい?」と聞くと、彼は「君の行きたいところ」と答えた。



《感想》風変わりな人物による、浮世離れした恋愛が描かれる。
恋には期限があると、自分の誕生日を賞味期限にした缶詰を買い漁り食べて吹っ切ろうとする刑事、部屋にある石鹸や雑巾にも感情があるかのように話しかける警官、若さゆえに恋する男を振り回す無謀で自己中で健気な女。
女々しい男と無軌道な女の恋物語。それぞれのときめきや切なさを斬新な映像と音楽で描き切って、今なお色あせることがない。
猥雑な路地やビル、狭い室内空間はいかにもアジア香港なのだが、男女のやり取りはどこかヨーロッパ映画のようでもある。
二人の撮影監督を起用しているのも面白い。
前半はアンドリュー・ラウでブレブレの疾走感、後半はクリストファー・ドイルの妖しげな色彩美が特徴で、全体的に人工的な甘美さを漂わせ、ゲリラ的に街中を撮って激しく動く映像世界を作り出している。
前半の展開は粗削りに過ぎるかと思うが、そこも魅力。ストーリーにこだわり過ぎず、身を委ね感じ取る映画だと思うし、時間をおいて二度観ると印象が変わってくる不思議さがある。
コケティッシュなフェイ・ウォンに魅了され、チャウ・カーリンの色香に惑わされ、そして、一度捨てて濡れた手紙を、チキン温風機(?) で乾かすトニー・レオンの純情に微笑む。
観終えたら、ママス&パパスの『夢のカリフォルニア』が強く耳に残っていた。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、偏屈御免。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!