料理に隠された家族の愛と確執
《あらすじ》東京に住むフリーカメラマンの東麟太郎(染谷将太)は、父・日登志(永瀬正敏)の訃報を受けて田舎に帰ってきた。
姉の美也子(戸田恵梨香)らと葬儀の準備を進める中、通夜振る舞いの弁当が届かないというトラブルが発生するが、それは母・アキコ(斉藤由貴)がキャンセルしたものと分かり、一同困惑する。
自ら用意すると宣言したアキコが作ったのは「目玉焼き」で、それは20年前、自分たちが初めて“家族”になった頃、日登志が作ってくれた思い出の料理だった。
20年前。日登志には11歳の美也子(森七菜)、7歳の麟太郎(外川燎)がいて、アキコは17歳のシュン(楽駆)を連れての再婚だった。
5人が家族になった日、アキコが虫垂炎で緊急入院するというピンチに見舞われ、日登志は子どもたちのために目玉焼きを作った。
目玉焼きに続いて、赤味噌か白味噌かで揉めた際の「合わせ味噌」の味噌汁、小骨が苦手な美也子のための「小骨を抜いた焼き魚」、兄弟が一緒に焼いた「焼き芋」、日登志が山で焼いた「キノコピザ」。それらは全て、家族が絆を深めた料理の数々だった。
次の「餃子」には苦い思い出があった。家族になって5年目のある日、1本の電話が入り、アキコが泣き崩れ、そのまま出かけ戻ったのは1週間後で、何とか家族で作ったのが餃子だった。
その日以降、家族の間に亀裂が入ってしまう。ある日、いつものように山登りに出かけた日登志はシュンだけに真実を打ち明け、衝撃を受けたシュンは翌日、家を出て、そのまま戻ってこなかった。
やがて通夜が終わりに近づいた時、15年も音沙汰のなかったシュン(窪塚洋介)が子どもを連れて現れる。
海外で登山家となっているシュンがアキコに代わって最後に作った料理は「すき焼き」だった。シュンは密かに死の直前の日登志と再会していて、日登志の要望で作ったのが、ラー油で食べるすき焼きだった。
食事を終えた美也子と麟太郎はアキコに呼ばれ、両親の秘密を打ち明けられる。それは、日登志とアキコが出会った頃、アキコは結婚していて、日登志には別居の妻がいたが、離れられない思いで家族になることを決めたということ。そしてアキコの元夫はショックから自殺未遂を起こし、それから長らく意識不明の状態にあったが、あの日、アキコが受けた電話は元夫の訃報で、そのことを日登志からシュンにだけ伝えていたのだった。
不倫という両親の秘密を知った美也子はアキコの身勝手さに激怒し、麟太郎も動揺を隠せなかったが、アキコは新しい家族から得た幸せと、過ごした時間に後悔はないと語り、アキコの強い思いを受け止めた美也子と麟太郎は、アキコを許し、改めて家族の絆を感じるのだった。
それまで「家族って何?」と家族の意味を理解できなかった麟太郎だったが、そこに恋人・理恵が現れ、いきなり平手打ちを食う。家族になることをためらっていた二人の再出発を予感させ、翌日、家族の集合写真を撮ってエンド。
《感想》父親が亡くなり、帰郷した麟太郎(染谷)が家族や親戚に再会して、「家族って何?」と自問するところから始まる。
子連れ同士の再婚家庭だった。
死を悼むとは故人を思い起こすことでもある。通夜には家族の思い出の料理が出され、その背景が語られる。
それまでの過去を捨てた者同士が、新しい家族を作るのは容易ではない。遠慮があり、妥協があり、秘密があり、思いやりと強い意志が求められる。
カメラマンである主人公の写真は「被写体に愛情がなく、冷たい」と言われる。それが生育に由来するものかはともかく、何か通い合う温かいものを見つけたように思えた。
しかし、モヤモヤ感が拭えない。それはそれぞれの元の家庭事情が全く描かれていないから。
両親が離婚・再婚した家庭なら、思春期の子どもはその経緯に必ず執拗な関心を持つはず。30歳前後になって打ち明けられ、涙する話ではないだろう。
やや脚本が粗く、冗長に過ぎる気もするが、人生の機微、心のひだを丁寧に描こうとする姿勢は好感が持てる。
ラスト近く、麟太郎宅を訪れた彼女(玄理)が、いきなり何も言わず彼を平手打ちする、このシーンが最も心に響いた。
彼女の思いこそが家族を作る意味なのだと。
言葉なしに思いを伝える、こんな演出のできる監督の長編第一作だから、次作にはもっと期待したい。
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