『象は静かに座っている』フー・ボー

諦念と絶望の淵から一条の光を求めて

《公開年》2018《制作国》中国
《あらすじ》炭鉱業が廃れた中国・河北省の田舎町。この町に住むチンピラのチェン(チャン・ユー)、高校生のブー(ポン・ユーチャン)、ブーの近所に住む老人のジン(リー・ツォンシー)、ブーの同級生のリン(ワン・ユーウェン)。それぞれの朝に始まり、「静かに座る象」のいる満州里に向かうまでの1日が描かれる。
【チェン】親友の妻と一夜を過ごし、目覚めたチェンだったが、帰ってこないはずの親友が部屋に入って来て、隠れる間もなく、彼を見た親友は「お前だったのか」と言うと、目の前の窓から飛び降りた。
【ブー】友人のカイが校内一の不良シュアイの携帯を盗んだと睨まれ、不良仲間の呼び出しを受けた二人だったが、ブーは盗みを疑われたカイをかばって揉み合いになり、誤ってシュアイを階段から突き落とし(のちに死亡)させてしまう。シュアイはチェンの弟だった。
事件の後、チェンの手から逃れようと、助けを求めて祖母宅に向かうが、祖母は死亡していて、叔父の助けも得られなかった。しかし途中でジンを見つけ、お金を借りた。
やがてカイから、シュアイの携帯を盗んだのは自分だと告白される。自分が小便する姿、リンの不倫密会の動画が映っていたからと聞かされ、ブーは憤る。
【ジン】娘夫婦と同居しているが、孫娘の進学のために引っ越したい娘夫婦は、ジンを老人ホームに入れようとしている。ジンは愛犬と散歩の途中、大きな迷い犬に出会い、愛犬が噛み殺されてしまった。
愛犬が死んだことを家族に話すが、その反応は冷たく、非情な家族に耐えられなくなったジンは老人ホームに向かう。そこは光さえ届かず陰湿で、老人たちはうつろな表情で暮らしていた。
やがてジンは娘の目を盗み、孫娘を連れて駅に向かった。
【リン】母親はだらしない上にきつい性格で、折り合いの悪いリンは、優しい声をかけてくれる男性教師を心の拠り所にしていた。
リンが交際する教師とホテルにいると、友人から動画が送られてきて、そこにはリンと教師の密会現場が映し出された。お前のせいと詰め寄る教師に絶望したリンは、ホテルを後にする。
窮地に立たされたリンは母親に助けを求めるが相手にされず、そこへやってきたのは教師とその妻。ヒステリックに叫ぶ妻の声にたまらず、金属バットで二人を殴り、荷物を持って駅に向かった。
【ブーとチェン】駅で偽物の切符を買わされるトラブルに巻き込まれ、相手がチェンの子分だったことから、チェンと対峙することになる。殺されるかと思ったら意外にも切符を用意してくれた。そこへ突然、銃を手にしたカイが現れ、チェンに発砲して負傷させ、自らに向けて引き金を引いた。
【エンディング】駅ではブーとリン、ジンと孫娘の4人が一緒になった。列車は運休になり、途中まで行けるというバスに乗った4人。途中休憩でバスから降りた暗闇の中、幻聴か現実か、遠い彼方から象の鳴き声が聞こえた。

《感想》満州里の動物園には、静かに座っている象がいるという。
象は立ったまま眠るというが、「静かに座っている象」とは?
また、人はなぜ象に惹かれるのか?
人の目から見た象は、悠然として何事にも動じない、崇高な存在である。そして象が“座っている”のは、危険が及ばない環境にいるから。
人生に絶望した人たちにとってそれは、願っている環境と生き方であり、今の自身にとって唯一の生きる希望なのだろう。
そしてラスト、バスが停車した地で、幻聴か現実かわからない象の鳴き声を聞き、何も語らずわずかな希望を感じさせて、映画は幕を閉じる。
閉塞感漂う寂れた町で、何かを喪失し、あるいはしがらみから行き詰まった人たちが、現実から逃げようとする旅の途中にあって、羽根蹴りをし、象の鳴き声を聞くのは一条の光。少なくとも道連れができて、孤独からの解放という救いを得たのだから。本来の希望にたどり着くのはまだ先にしても。
カラー作品なのにほぼグレーという色調、人物をアップとボケで捉える独特のカメラワーク、そして一見無駄とも思える長回しで約4時間という長尺。
冗長に感じるシーンは少なからずあったが、そのこだわりこそが、本作のみで世を去った監督の譲れない主張だったようで、こんな独特の空気感を持った映画作家が早逝したことを残念に思う。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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