『カルロス』オリヴィエ・アサイヤス

テロリストの夢と欲望、そして無常

カルロス

《公開年》2010《制作国》フランス
《あらすじ》
【1.野望篇】1949年、ベネズエラに生まれた活動家の通称カルロス(エドガー・ラミレス)は、1970年、パレスチナ解放人民戦線(PFLP)に参加する。
日本赤軍によるテルアビブ空港乱射事件(72年)とオランダ・ハーグのフランス大使館銃撃事件(74年)を後方支援し、75年1月に西ドイツのテロ組織・革命細胞と共に起こしたオルリー空港でのイスラエル航空機砲撃など、数々のテロで有名になっていった。
【2.栄光篇】イラクのサダム・フセインは、石油輸出機構(OPEC)を味方につけ原油価格を値上げしたい思惑から、値上げ強行の妨げとなるサウジアラビアとイランの石油相を抹殺しようと、協力関係にあるPFLP分派組織のリーダー・ハダドと組んで計画し、作戦の指揮をカルロスが執ることになる。
75年12月、ウィーンのOPEC本部で開かれた石油相会議を襲撃し、各国首脳を人質にとって、用意させた飛行機でアルジェリア~リビア~ブダペストと飛び、各国で革命の正義を訴え、全世界のメディアに注目された。
しかし交渉は決裂し、人質は殺さずに解放、身代金は得たものの後に着服がばれてハダドの怒りを買い、カルロスはPFLPを追放される。
その後、ハダドが急死した。
【3.完結篇】追放後はバグダッドに潜伏し、シリアの庇護のもと、武器の密輸やヨーロッパにおけるテロの黒幕として暗躍するが、金次第で誰の命令でも従う傭兵のような存在になっていった。
米ソ冷戦を背景にソ連という大国のサポートを受け、多くのテロに関与するが、冷戦終結によりソ連や東側諸国からの支援を失い、またアメリカの圧力もあって、潜伏していたシリアからも国外追放になる。
89年のベルリンの壁崩壊と共に更に支援者を失い、最果ての地スーダンに逃れるが、各国の情報機関に追われ、酒と女に溺れていった。
スーダン政府はカルロスの国内潜伏を黙認していたが、フランスの身柄引き渡し要求に応じる形で逮捕を決定し、拘束の後はフランスに移送され、パリの刑務所に拘置されている。



《感想》資産家の家に生まれたが、熱心な共産主義者の父の影響を受け、当然のように革命を夢見た若者は、革命の目的に頓着することなく突っ走り、一躍英雄視される。しかし、栄光の日々は長く続かず、次第に組織から疎まれ孤立し、拘束されてテロリスト人生を終える。
冒頭「史実や報道に基づくフィクション」とあるが、ドキュメンタリー・タッチで一気呵成に展開する。
そして、テロ行為の裏にある政治との絡みには触れるものの、歴史の一コマとして淡々と描いて深追いはせず、政治体制やテロの功罪には言及しない。
また、テロリストの苦悩とか葛藤とか、あるいは特定の女性への愛とか、余計な人間ドラマを挟まず、夢を追い、欲望に任せて突っ走る様が凄い。
この潔さがまるでアクション娯楽映画のようで、5時間30分という長丁場の鑑賞を可能にした要因だろう。
そのスピード感は『ジェイソン・ボーン』シリーズを彷彿とさせ、細かいカット割りで畳みかけるような展開は『仁義なき戦い』シリーズを想起させる。
中東情勢に疎い身には分かりにくい点が多々あるが、カルロス自身が「結局、俺たちは大きな歴史の駒に過ぎない」と述懐しているように、鑑賞後に漂うのは無常観。夢や欲望の裏に隠れた人間・カルロスに思いを馳せてみたい。
信じるままに闘い続けて20年余を駆け抜けた男の人生は、激しかった時代の象徴として生き続け、それを観た者に疲労感以外の何かをもたらすはずである。

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投稿者: むさじー

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