貧困にあえぐ少年と老馬の過酷な旅
《公開年》2019《制作国》イギリス
《あらすじ》15歳の少年チャーリー(チャーリー・プラマ―)は、幼い頃に母親に捨てられ、酒と女好きの父親レイ(トラヴィス・フィメル)と二人、貧乏だが支え合って暮らしている。
ある日、チャーリーが競馬場に立ち寄ると、デル(スティーヴ・ブシェミ)という調教師から声を掛けられ、車の修理を手伝い、チャーリーはデルの馬小屋で働くことになる。
そこで年老いた競走馬リーン・オン・ピートに出会ったチャーリーは、ひたむきに仕事をこなし、互いに心を通わせていった。
しかしある夜、寝静まった自宅に大男が押し入り、「俺の女房に手を出した」と叫んでレイに襲いかかって、怯えたチャーリーがレイの元に駆け付けた時には、既に瀕死の重傷を負って、手術と入院を余儀なくされる。
チャーリーは伯母のマージーに連絡をとろうとしたが、父と伯母は数年前に大喧嘩をして以来音信不通で、連絡先を聞けなかった。
入院費用を払うため、チャーリーはデルや女性騎手のボニーと共に地方競馬に出向き、ピートに騎乗したボニーが見事1着になり喜ぶが、ボニーからは「馬を愛してはだめ」と忠告される。
次の日、チャーリーが父の病室に向かうと、医師から昨夜亡くなったことを知らされる。未成年の彼の今後を心配する医師から逃げ出し、チャーリーはピートの元へ走った。
過度なレースで足を痛めていたピートは、もう競走馬としては限界を迎え売却される運命にあり、彼にとって父と愛馬を共に失うことは耐え難かった。デルから、ピートを車に乗せるよう指示されたチャーリーは、車に乗せたピートと共に、逃亡の旅に出る。
しかし道中、金のないチャーリーは、ガソリンを盗み、無銭飲食を働くのだが、砂漠の真ん中でガソリンが底をつき、そこから荒野を歩き始める。
砂漠を歩き、一軒の家を見つけたチャーリーはそこの住人に助けを求め、気のいい男たちは食事と宿を提供してくれたが、どことなく息苦しさを感じたチャーリーは深夜、ピートと共に家を後にした。
そして、夜中に道路近くを歩いていると、突然現れたバイクの音に驚いたピートが暴れ出し、ピートが車に轢かれて死んでしまう。
一人ぼっちになったチャーリーは、食にありつくため炊き出しに出向いて、そこでトレーラーハウスで暮らすカップル、シルバーとマーサに出会い、塗装の職にありつく。だが酒癖の悪いシルバーに金を奪われそうになり、必死に抗うが、暴力をもって大人に対抗する自分の行いに震えるのだった。
やがて彼は伯母マージーに関する有益な情報を手に入れ、彼女が働いているというララミーの図書館に行き、再会を果たす。レイと揉めて縁を切ったことを後悔している伯母は「もう離さない」と言い、彼は父や愛馬を失って傷ついた思いを吐き出し、伯母の胸で泣いた。
《感想》早くに母を失い、そして父を失った少年が、貧しさからネグレクトの運命にある我が身と、使い物にならないと切り捨てられる老馬の運命を重ね合わせ、愛する馬と共に逃亡するロードムービー。
探しているのは馬と自分の居場所という、切実で過酷なものだった。
生きるためには悪事を働き、果敢に大人社会に踏み込むが、自身の無力さを痛感させられ、頼れる家族にたどり着いて涙する。
中盤から少年と馬の逃避行が始まるのだが、その辺からやや物語が脇道に逸れて、後半はやや散漫な印象を持った。
荒野で困ったとき親切な家族に出会うが、心からは馴染めなかったこと。炊き出し先でトレーラーハウスのカップルに出会い、自由と貧困の現実を知ったこと。少年はこの体験から何を学んだのか、明確には伝わってこない。
むしろ、デルとボニーという魅力的脇キャラに再会させたかった、と思う。
と不満を抱きつつも、貧困と孤独に耐え逃避行を続ける少年の姿は(許されないことだが)胸に迫るし、少年の心の叫びを痛々しいまでに演じたチャーリー・プラマーの熱演には心動かされる。
同監督の前作『さざなみ』で描いたのは老境を迎え葛藤する高齢女性の孤独だが、本作は少年の孤独。静謐で地味過ぎる点は共通している。
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