『パピヨン(1973年)』フランクリン・J・シャフナ―

生き延びる執念と極限での友情

パピヨン

《公開年》1974《制作国》フランス
《あらすじ》1930年、金庫破りで逮捕された通称パピヨン(スティーブ・マックイーン)は、強盗殺人の冤罪を着せられ、終身刑で南米ギニアの刑務所に送られる。移送される囚人の中に、国債偽造の罪で逮捕された偽札作りのプロ、ルイ・ドガ(ダスティン・ホフマン)がいた。
脱獄を目論むパピヨンはルイに、用心棒を引き受ける代わりに偽金での協力を求め、早速看守を買収しようと持ちかけるが、うまく運ばず、二人は島での過酷な労働を強いられる。
次にパピヨンは、ボートの運転ができる囚人クルジオに接触して、貴重な蝶の買い付けに来島する商人に大金を提示し、1週間後にボートを手に入れる約束を取り付け、渋々ルイも加わることになった。
そんな時、パピヨンとルイは処刑された囚人の遺体を運ぶ役を命じられ、ルイが嘔吐して看守から暴行を受ける。それを庇ったパピヨンは看守と揉み合いになり、そのまま脱走するが、ハンターに捕まり独房に収監されてしまう。
独房にはルイから差し入れの食糧が秘かに届けられていたが、それが発覚して提供者の名を吐くよう迫られ、食べ物半減、灯りを奪われても、名を明かさないまま独房での刑期は満了した。
その後パピヨンとルイは刑務所の病院で再会し、パピヨンは次の脱走計画を練る。刑務所の医者にボートの手配をしてもらい、同性愛者のマチュレットに見張り役の気を引くよう頼んだ。
決行する音楽会の夜。ルイは脱走せずに残ることを選び、パピオン、クルジオ、マチュレットの三人は脱獄を試みるが、クルジオが捕まってしまい、パピヨンに銃を向ける看守をルイが殴り倒し、急遽ルイも加わってボートに向かう。
しかし、そのボートは壊れて使い物にならず、加えて逃走の際ルイは足を骨折していた。すると突如顔に入れ墨をした男が現れ、ボートを入手するには筏でハンセン病患者の住むピジョン島に行くよう助言してくれた。
着いたピジョン島でパピヨンは、ハンセン病のリーダーから吸いかけの葉巻を吸うよう勧められ、それに応えて人柄を認められたパピヨンはボートを譲られ島を離れる。しかしルイの足のけがが悪化し、壊死した片足を切断した。
3人はホンジュラス島にたどり着くが、警備隊に見つかり、動けないルイを残して逃げるうち、パピヨンは吹き矢に撃たれ川に落ちる。
パピヨンが目覚めると、そこは海沿いの原始的な集落で、住民から歓迎され、現地女性と愛を育んだパピヨンだったが、ある日突然住民たちはパピヨンに真珠を残し、みな姿を消した。
バスで内陸に向かったパピヨンは検問を逃れるため、修道院の馬車に乗せてもらい真珠を渡して院内で休むが、修道院長が警察に通報したため、パピヨンは再び囚われの身となる。
5年後、独房から出されたパピヨンは、サメと激しい潮流に囲まれたデビルズ島に送られ、そこでルイに再会するが、頼りだった妻が弁護士と再婚していて、見捨てられたルイは絶望していた。
それでもパピヨンは波を観察して脱出法を思いつき、決行直前になって行けないと言うルイを置いて一人、ヤシの実を詰めた浮き袋を崖から落とし、それに乗って島から脱出した。
パピヨンは残りの人生を自由に生き、ギアナの刑務所はその後まもなく廃止された。



《感想》絶海の流刑地に投獄されたパピヨンの度重なる脱獄・冒険譚と、同じ服役囚ルイとの友情を描いて、2017年にはリメイク版が作られた名作。
リメイク版はアンリ・シャリエールの原作実話に沿って忠実に再現した感があるが、本作にはもっとダイナミックな、人間のドラマとしての掘り下げが見られる。
本作でのみ描かれたその大きな違いは次の二点。
1)ハンセン病患者が隔離された島に行き、リーダーから吸いかけの葉巻を勧められ、人柄を認められたパピヨンがボートを譲ってもらうシーン。
ハンセン病コロニーの元締めだった人物は実在し、この地で終生を過ごしたとのことだが、いわれのない差別と虐待へのアンチテーゼが、パピヨンの冤罪・投獄と重なって見える。
2)舟が難破し漂着したのが“楽園”のような島だったが、ある朝気付くと、みな姿を消していたという意味不明なシーンは解釈に迷う。
新天地を求めて移動できる、文明と途絶した自由こそ真の豊かさ。あるいは、楽園(幸福なとき)はある時突然消えてしまうもの。どちらにしても、パピヨンのままならない運命に思いが及ぶ。
重すぎ、暗すぎ、長すぎるが、極限での信頼、友情を描くその濃密さ、生への執念を描くその貪欲さには強く惹かれる。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。