『リラの門』ルネ・クレール

悪人を巡る恋と人情は切なく

リラの門

《公開年》1957《制作国》フランス
《あらすじ》大酒飲みで怠け者のジュジュ(ピエール・ブラッスール)はろくでなしだが、人柄の良さで街の人たちから愛されていて、ジュジュには「芸術家」(ジョルジュ・ブラッサンス)と呼ぶ無二の親友がいる。
二人は隣同士で、ジュジュは母と妹の三人暮らし、芸術家は一人で暮らしていた。
ある朝、芸術家の部屋に逃走中の強盗殺人犯・バルビエ(アンリ・ヴィダル)が逃げ込んで来て、拳銃で脅されてやむを得ず地下室に匿う。
表では子どもたちが「バルビエごっこ」をして遊び、新聞で事件を知った二人だったが、芸術家は「人を売るのは趣味じゃない」と言い、ジュジュは「悪事をして欲しくないだけ」と言って、逃亡で疲弊し体調を崩したバルビエの面倒をみた。
やがてバルビエは高飛びの計画を練り始め、芸術家はそれが早く実現するよう願ったが、ジュジュは「命の恩人」と感謝するバルビエにより快適な生活をさせようと懸命な努力を始める。
ジュジュはこの新しい友人のために酒をやめ、人が変わったように働き者になり周囲は喜ぶが、彼が想いを寄せる酒場の娘マリア(ダニイ・カレル)だけは、その変化に裏があると感づいていた。
マリアは芸術家の部屋に忍び込み恐る恐るバルビエに会うが、秘密を悟られたと思ったバルビエは言葉巧みに彼女を籠絡し、その心を掴んでいった。
一方、秘密が漏れたことでバルビエはジュジュを責めたが、ジュジュの友情は変わらなかった。
やがて周囲の協力で高飛びのための旅券が手に入り、いざ逃げる段になってバルビエは、マリアをそそのかして彼女の父親の蓄えを持ち出させ一緒に逃げようとする。
さらに金だけを目的に彼女を誘惑し、いずれ捨てるというバルビエに、その金を運んできたジュジュは愕然とし、「金目的と知った時のマリアの失望」を思い必死に懇願したが、バルビエは聞き入れなかった。
バルビエはジュジュに拳銃を向けるが、ジュジュはそれでも引き下がらず、揉み合ううちに銃声が三発。生き残ったのはジュジュだった。



《感想》怠け者だが善良で優しい男が、逃亡中の強盗を匿う羽目になり、面倒をみるうち友情が芽生えるが、男が想いを寄せる娘がその秘密を知り、出会った娘と強盗は恋に落ちる。
しかし高飛びしようとする強盗の真の狙いは金で、そのことを娘が知った時の失望を思い男は強盗に懇願するが……という展開。
ラストシーンは事細かに描かない急激な展開で「その後は不明。想像に任せる」かのように切ない余韻を残して締められる。
人情話+ラブロマンス+コメディをブレンドした古き良き時代の名作だが、いま観ても、権力を嫌う下町気質とか、“いい人”の描き方とか、善人と悪人の奇妙な友情とか、大仰ではあるがレトロな魅力に溢れている。
近年、『巴里祭』(1933年)と一緒に4Kデジタル・リマスター化され、上映される機会が増えたが、共にパリの下町の暮らしが生き生きと描かれ、音楽も素晴らしい作品である。
初期の代表作『巴里祭』はほのぼのとした恋愛映画の秀作だが、本作と比べてしまうと深みに欠け、人物キャラの造形、その絡ませ方、描く世界観の広さ、いずれをとっても24年を経た本作の重みが実感できるかと思う。
芸術家を演じるジョルジュ・ブラッサンスが弾き語りで歌うシャンソンが、しみじみと人生の機微を語りかけてくる。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。