『賭博師ボブ』ジャン=ピエール・メルヴィル

粋で哀愁漂う異色のノワール

賭博師ボブ

《公開年》1955《制作国》フランス
《あらすじ》モンマルトルの早朝、初老の賭博師ボブ(ロジェ・デュシェーヌ)は、日課である賭博を終え帰宅の途中、親交のある警察のルドリュ警視(ギイ・ドコンブル)の車に拾われる。
ボブは元ヤクザだが今は足を洗っていて、その昔あるきっかけでルドリュの命を救って以来、二人は友人関係にあった。
そんなボブは顔が広く、ヒモ稼業のマルクと一緒にいた少女アンヌ(イザベル・コーレイ)と知り合いになり、その少女を、息子のように可愛がっているポロ(ダニエル・コーシー)に紹介する。
住む所のないアンヌを自分の部屋に住まわせ面倒をみるが、いつしかアンヌとポロは深い仲になっていた。
ある日、ボブは競馬で大当たりし賭博で大負けして帰るが、友人のロジェから、カジノの金庫には8億もの大金が眠っているらしいという話を聞き、カジノの金庫を襲おうとボブはロジェを誘う。
早速二人は、カジノの図面と金庫情報を入手するため、カジノの胴元であるジャンを買収し、ポロを始めとする仲間を集め軍資金の獲得にも成功する。
そうして周到な予行演習をして、カジノ強盗の準備は着々と整っていった。
ところが、カジノ強盗の話がポロの口からアンヌに漏れ、アンヌと一夜を共にしたマルクがそれを耳にして、かねてから警察への情報提供を迫られていたマルクは、情報入手に嬉々とする。
不安を覚えたアンヌは、そのことをボブに打ち明けるが、怒りを買っただけで思いとどまることはなかった。
一方、カジノの情報を売って大金を手に入れた胴元のジャンは、そのことを妻に嗅ぎつけられ、更なる報酬を求める強欲な妻に尻を叩かれボブを探すが見つけられず、保身のために強盗計画をルドリュに密告する。
時を同じく、ルドリュに密告しようとしていたマルクは、電話の最中にポロによって射殺される。
不確かながら密告情報を得たルドリュは、ボブに探りを入れるがシラを切られ、密告内容をカジノに確認して裏を取ると、すぐにカジノへと向かった。
午前1時半、ボブはカジノに到着し、状況確認のためジャンを探すが見つからず、つい一勝負と賭博に手を出すと、思いがけず勝ちまくり、時間を忘れて賭博にのめり込んでしまう。
午前5時、仲間は予定通りカジノに到着するが、そこで警察と銃撃戦になってポロが撃たれ、一足遅れて駆け付けたボブの腕の中でポロは亡くなった。
仲間は全員ルドリュらに逮捕されるが、連行される車にはボブがカジノで稼いだ大金が運び込まれ、強盗で手にするはずの金を合法的に稼いでしまったという皮肉な結末でエンド。



《感想》ツキの逃げた老賭博師は、カジノ強盗を目論んで仲間を集め計画を練るが、いざ実行の段になると、その日に限って勝ちまくり、賭博師の性からのめり込んで、襲撃の手はずが狂ってしまう。逮捕され連行される車に、賭博で稼いだ大金が運び込まれ……という皮肉な結末を迎える。
メルヴィル初のフィルム・ノワールだが、後の『サムライ』のようなダンディズムに貫かれた世界と一味違って、粋で軽くてユーモアに満ちた作りになっている。
監督は“風俗喜劇”と言っていたらしいが、魅力的なキャラを集めた群像劇の趣きがあり、脇役陣がハマっている。
美少女アンヌ役のイザベル・コーレイが醸し出す幼さと色香が同居した不思議な魅力、ルドリュ警視役のギイ・ドコンブルの飄々ととぼけた味わい、バーの女主人役シモーヌ・パリの凛として愁いある女性の佇まい。
いかにも不器用そうな主人公ボブに絡むと、より魅力的に映るのは、むしろボブを演じるロジェ・デュシェーヌの朴訥とした存在感あってのことかも。
空き地にカジノの平面図を描いて予行演習をしたり、聴診器で金庫破りを試みたり、いい大人が犯罪ごっこを楽しんでいるようで、思わずニンマリしてしまう。
少し疲れた大人の哀愁が漂うノワールの異色作である。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。そして、世間の評価に関係なく私が心動かされた映画だけ、それがこだわりです。やや深読みや謎解きに傾いている点はご容赦ください。 映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があります。「いやぁ~映画って本当にいいものだ」としみじみ思います。