『フォックスキャッチャー』ベネット・ミラー

孤独な富豪の切なる願いと狂気

《公開年》2014《制作国》アメリカ
《あらすじ》1987年。マーク・シュルツ(チャニング・テイタム)は3年前のロス五輪のレスリングで金メダルを獲得し、今はコーチである兄のデイヴ(マーク・ラファロ)と共に次期五輪を目指している。
マークはどこか陰鬱とした男で不遇の毎日を送っているが、同じく金メダリストだったデイヴは、明るく人望があって幸せな家庭を築いていた。
また幼いころに両親が離婚した兄弟は、デイヴが父親代わりでもあった。
そんなマークのもとに、財閥の御曹司であるジョン・デュポン(スティ―ヴ・カレル)から、ジョンが率いるレスリングチーム「フォックスキャッチャー」への勧誘の話が舞い込む。
住まい、多額の給料を提示され、窮乏していたマークはその提案に飛びつくが、同時に誘われたデイヴは家族の生活を変えたくないと申し出を断った。
世界選手権に臨んだマークはデイヴの適切なアドバイスで勝ち進むが、ジョンと顔を合わせても無関心なデイヴにマークは腹を立て、資産家の家に生まれたが故に孤独だったジョンに共感を抱いて慕うようになり、兄から距離を置くようになる。
そしてジョンからコカインを勧められ、マークはコカインを吸うようになっていた。
練習をさぼるようになったマークに怒ったジョンは、どうしてもデイヴをチームに引き入れようと、法外な金を用意してデイヴを誘い、それを受け入れたデイヴは家族と共にクラブ近くに越してくる。
しかしマークは、デイヴが金で動いたことで兄を見る目が変わり、ジョンと自分の間にデイヴが加わることに、不満を募らせていた。
ある日、レスリングを軽蔑している母親がジョンのコーチングを見に来て、自分のコーチぶりを誇示し認めてもらおうとするジョンだったが、母はそれを無視して去り、失望する。
1988年のソウル五輪予選。初戦で負けたマークは自暴自棄になり、やけ食いをして一人もがくが、デイヴの叱咤で乗り切り、兄弟の絆は回復する。
時を同じくして、レスリングを認めず馬術を愛したジョンの母親が急逝し、ジョンは母が愛した馬を解き放ち、自身のレスリングコーチとしてのドキュメンタリーを作り始める。
ジョンはレスリング協会に多額の寄付をすることで、全米チームのコーチとして関わろうとするが、デイヴのコーチを受け始めたマークはジョンから気持ちが離れていき、マークの将来を心配したデイヴは、自分が在籍する限りマークの収入を保証するようジョンに約束させた。
しかしソウル五輪で敗退し、マークはクラブを去った。
ある日曜、ジョンはデイヴの住まいを訪ねるが、デイヴから休日を理由に断られ、何も言わずその場を去ったものの、帰宅して自らのドキュメンタリーを見る目はうつろだった。
そしてジョンは再びデイヴの家に向かい、彼の妻が見ている前でデイヴを射殺し逮捕される。
その後、マークは総合格闘技の世界に入り、ジョンは獄中で死亡した。

《感想》レスリングコーチに憧れる富豪は、何事も金で解決できる環境で育ったが、母親の愛情と友人だけは手に入らなかった。
レスリングのコーチを務める兄は、選手時代の栄光だけでなく明るく人望があるが、それに比べ選手である弟は、偉大な兄の陰に隠れて劣等感に悩み陰鬱な日々を送っていた。
そんな弟の実力を誰よりも認めてくれた富豪に弟は惹かれ、心に闇を持つ二人の間に共感と友情が芽生える。しかし、正常な関係は保てなかった。
そして妄想に生きそれを壊された富豪の狂気は、唯一正気を保ち幸せに包まれている兄へと向かう。異世界に住んでコントロールできない存在は、富豪にとって脅威だったのだろう。
と同時に、“危ない男”と目されながら、周囲は追従者ばかりで、誰一人心を通わせることのなかった孤独な男の悲劇だとも言える。
実際の事件では後に富豪が統合失調症であったことが判明するが、映画では動機も語られず謎のまま終わる。
しかし、複雑に絡み合った三人の愛憎のドラマは深く心の闇を照らし、人生のままならなさを痛感させて切ない。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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