『八月の鯨』リンゼイ・アンダーソン

美しい島で老いと死を思う

《公開年》1987《制作国》アメリカ
《あらすじ》アメリカのメイン州にある小さな島。リビーとサラの姉妹は、少女時代から夏になると島の別荘を訪れ、入り江に現れる鯨の姿を見るのが楽しみだった。
時代は進み、老人となった姉妹は今年も別荘で夏を過ごしている。戦争で夫を失った妹サラ(リリアン・ギッシュ)の面倒をみていた姉リビー(ベティ・デイヴィス)が、今は目が不自由で妹に面倒をみてもらっている。
そんなリビーは、誰かに頼らざるを得ない今の生活に腹を立てていて、サラにトゲのある言葉を投げかけるが、それでもサラは優しくリビーに応え、身の回りの世話をしていた。
ある日の午後、年老いた修理屋のジョシュアが別荘の修理に訪れ、陽気な幼馴染のティシャがお茶を飲みに、近所に住む元ロシア貴族のマラノフが釣った魚を届けに来るが、リビーはそれらの会話に加わることはなく、三人と楽し気に会話するサラにいらだつのだった。
サラは魚をくれたお礼にとマラノフを夕食に招待するが、リビーは快くは思わず、忙しく準備するサラを揶揄する。
やがて盛装して訪れたマラノフを、サラは身だしなみを整えて出迎え、二人は昔話に花を咲かせて、楽しいひとときを過ごした。
夜になり、リビーを交えて夕食をとるが、夕食後、突然リビーが、先日亡くなったマラノフの妻の話と、彼が流浪の人生を送ってきた話をする。
「早く次の家を見つけるべきだが、ここは当てにしないで」と傷つけるような言葉を吐く。マラノフがサラに好意を持っていると直感していた。
そして、サラが去って一人ぼっちになることを何よりも恐れていた。
サラはマラノフにリビーの無礼を詫びるが、マラノフは笑って姉妹を褒め、去って行った。
マラノフが去った後、サラは結婚記念日を祝って、亡夫の写真を前に一人でワインを飲み、わがままなリビーにはついていけないと独り言を言う。
翌朝、サラはこの冬は自分一人、島で過ごすつもりだとリビーに言った。
そこに突然、ティシャが不動産屋を連れてやって来た。ティシャは別荘を売ろうとサラに提案していたのだが、サラはその申し出をきっぱりと断り、怒って彼らを追い返してしまう。
それを自室で聞いていたリビーは、かねてからサラが望んでいた「大きい見晴らしの良い窓を作る」ことに賛意を示し、それを修理屋のジョシュアに伝えた。
それには姉妹にとって、これからもこの別荘で長く暮らそうという意味があった。リビーの言葉にサラは微笑み、姉妹は鯨を見るために岬へ出て、仲良く海を眺めた。

《感想》まさに老老介護の姉妹の話で、出演者は老人ばかり。特に大きな出来事が起こる訳ではなく、静かな暮らしが淡々と描かれる。
姉はままならない自分と、死への不安から周囲に当たり散らし、妹はわがままな姉との壊れそうな関係に限界を感じていた。
そんな頑なだった姉の気持ちが、ふとした瞬間に解放されていく。それは突然訪れたように見えるが、実は姉が抱えている障害、孤独、不安をおもんばかった優しい妹と心が溶け合った瞬間であり、寄り添うための着地点だった。
誰も老いや死からは逃れられない。適度な諦念とわずかな希望を抱いて生きるしかない。
明るく切ないエンディングなのだが、暑すぎない避暑地の夏と相まって、爽やかな余韻を残している。
そして二人の名女優はこの老境を、静かに気品を持って演じている。
ただ、若い人にこの老境の機微を理解しろと言っても無理かな、という気はする。
随所に小津作品の影響を感じる。通称「無人のショット」の挿入にオヤッと思い、静かな流れと漂う哀愁、窓から見える美しい海にも近しいものが見えた。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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