芸術と悲壮美に彩られた復讐譚
《公開年》2017《制作国》フランス
《あらすじ》1918年、第一次世界大戦に従軍したアルベール(アルベール・デュポンテル)らの隊は、塹壕に潜んでいたところに休戦命令が届くが、戦争好きの指揮官プラデル(ローラン・ラフィット)が命令に背いて部下に偵察を命じたことから、ドイツ軍の攻撃を招いてしまう。
その混乱の中、アルベールが塹壕に落ち生き埋めになろうとしたところを、若い兵士エドゥアール(ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート)に救われ、エドゥアールは砲弾の炸裂で顎を吹き飛ばされた。
顔半分を失い絶望的になったエドゥアールは、深い確執があった父マルセルの住む家に帰ることを拒み、困ったアルベールは、死亡した兵士の個票とすり替え、エドゥアールが戦死したように装って、パリに連れ帰った。
そこに孤児の少女ルイーズ(エロイーズ・バルステール)が加わって、三人の共同生活が始まる。
エドゥアールは、顔の傷を隠す奇抜なマスクを作ったり、絵を描いたりしていたが、ある日、絵の才能を生かした詐欺の計画を思い付く。
世の慰霊ムードに乗って、慰霊碑のデザインをして注文を受け、前金を貰ったら高飛びしようという計画で、そのためのカタログ作りに奔走する。
やがて、国が大規模な戦没者慰霊碑を建設しそのデザインを公募することを知って、詐欺計画の対象を変えるが、その出資者は父マルセルだった。
エドゥアールの家は銀行を持つ資産家で政界にも影響力を持ち、父は厳格で傲慢な人物だったため、芸術家肌の彼とは折り合いが悪かった。
またマルセルの娘でエドゥアールの姉マドレーヌは、彼らの元上官・プラデルと結婚していて、彼は埋葬会社の社長に納まり、ずさんな仕事で暴利を貪っていた。
デザイン画の審査に当たったマルセルは、応募作品に息子のサインを見つけて、その周辺を探り出し、息子の戦友だったアルデールを自宅に招いたりするが、アルデールはそこで働くメイドのポリーヌに惹かれていく。
そしてマルセルによって当選作となり、三人は大金を手にしてモロッコに高飛びする準備をするが、裏で調査していたプラデルによってエドゥアールの居場所が突き止められてしまう。
一方、プラデルの悪行を知ったエドゥアールらは秘かにプラデルへの復讐計画も進めていて、役人が不正調査に来た埋葬墓地の現場で、アルデールはプラデルを墓穴に落とし生き埋めにした。
やがてエドゥアールの元を訪れたマルセルは、仮面を着けたままの息子を褒めたたえ、二人は長年のわだかまりを解き抱擁するが、その直後エドゥアールは父に「天国で……」と言い残して、高層階のベランダから飛び降りた。
過ぎて1920年、アルベールは詐欺事件で取調べを受けていたが、捜査官がかつてプラデルに騙され戦死した兵士の父親だったことから、無罪放免になり、ルイーズ、ポリーヌと三人でモロッコの街中を笑顔で歩いてエンド。
《感想》戦争で顔を失った男と、助けられた恩義から献身的に支える男が主人公で、反目し合っていた父親、策略家の元上官との確執が絡んで復讐譚が展開する。
クライマックスは、仮面の男が深い確執から疎遠だった父親に再会し、和解し抱き合った直後に起こる衝撃のシーン。
多くの人は「何故?」と思い、合点が行かないはずで、説明不足を不満に思いながら、考え込まされた。
1)絶望:死者として別の人生を生きたかった。親子の絆は切れないけれど、心底分かり合えないだろうし、憎しみを抱えたまま共に生きるのは辛い。
2)復讐:父は息子を亡くしたと知って、その存在の大きさに気付き後悔している。そんな父の思い・期待を裏切ることこそ、父への最大の復讐になる。
3)喜び:父から憎まれていると思っていたが、愛されてもいた。自分を認めてくれたことが嬉しく、もう思い残すことはない。
雑多な感情が湧き起こり混乱したまま、そのベクトルが全て死に向かってしまった、と推察するが、一言で言うと“無念”であり、無常観が漂う。
原作者自身が長編小説の一部を脚色しているので、あれこれ盛り込み過ぎて、その結果映画の焦点が呆け、背景の描き込み不足が生まれたのではないか。
そんな不満はあるものの、ストーリーは面白いし、次々作り出す仮面のセンスと美しさ、緻密な鉛筆デッサンには目を奪われる。
希望を持たせたエンディングだが、余韻は切なく哀愁を帯びている。
※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。