『潮風とベーコンサンドとヘミングウェイ』ランダ・ヘインズ

老いと孤独と友情、その愛おしい日々

潮風とベーコンサンドとヘミングウェイ

《公開年》1993《制作国》アメリカ
《あらすじ》フロリダの海沿いの町。海辺のアパートで暮らすフランク(ロバート・デュバル)は元船乗りで、最年少で船長になったことと、昔ヘミングウェイとレスリングをしたことが自慢だった。
ガサツで飲んだくれのフランクは、大家の未亡人・ヘレン(シャーリー・マクレーン)に疎まれてはいるが、一人暮らしの彼にとって良い話し相手だった。
ある日フランクは公園を散歩していて、ベーコンサンドを傍らにパズルをする初老の男・ウォルター(リチャード・ハリス)に出会い話しかけるが、男は迷惑そうに無視した。
翌日も同様に出会って、フランクの誘いで、ウォルターが好きなサンドイッチの店・ダイナーに二人して行くことになる。ウォルターはダイナーのウェートレス・エレーン(サンドラ・ブロック)に秘かな想いを寄せていた。
彼女が特注で作るベーコンサンドを食べ、仕事が終わるのを待って一緒にバスで一周して帰るのを日課にし、町のダンスパーティに誘おうとダンスの練習をしているが、まだ言い出せないでいる。
週末にエレーンの住む町で花火大会があると知り行きたがったウォルターだったが、祝日でバスが運休だったため、フランクの二人乗り自転車で花火大会に向かった。
思うように進まず、途中休憩のとき花火大会は始まってしまうが、花火を見ながら語り合い、友情が芽生える。
ウォルターは以前理容師だった。ウォルターに散髪と髭剃りをしてもらったフランクは、その後、行きつけの映画館のモギリの職に就く。
ある日、エレーンが結婚して引っ越すことを知ったウォルターは、贈り物をしたいとフランクに相談し、フランクのアドバイスに従ってウォッカをプレゼントするが、酒は飲めないとエレーンに受け取ってもらえなかった。
そのことでウォルターはフランクのせいで恥をかいたと怒り、フランクはウォルターを煮え切らない男と非難し、二人は互いの人格を否定するような大喧嘩になる。
喧嘩別れから数日経ち、フランクは何事もなかったかのように公園でウォルターを探して詫びながら話しかけ、ウォルターも言い過ぎたことを謝罪した。
エレーンが引っ越す日。フランクに後押しされるように、エレーン宅に向かったウォルターは、彼女に別れの挨拶をすることができた。
そしてウォルターは町のダンスパーティにフランクを誘う。フランクも乗り気だったが、約束の時間になっても現れないので部屋を訪ねると、寝ているようなフランクの姿があって、彼は永遠の眠りについていた。
ウォルターはフランクに別れを告げてダンスパーティに向かい、日頃の練習の成果を示すかのように、見事なステップを決めてエンド。



《感想》酒と女が大好きな元船乗りのフランクと、真面目で内気な元理容師のウォルターは、陽と陰、動と静と性格は真逆で、孤独に耐えられない男と、孤独を楽しめる男でもあった。
老いと孤独を抱えた二人が、海辺の町で出会い、フランクは二人乗り自転車の相方を見つけ、ウォルターはフランクから生き方を変える勇気をもらった。
ウォルターがフランクから学んだことは、自分を解放することと後悔しない生き方。他人と共有する楽しみや喜びは、臆せずに掴み取るものだと。
老人たちの他愛のない日常が淡々と描かれ、エピソードの盛り上がりには欠けるが、だからこそ老いた身の孤独で寂寥の日々が愛おしく思えてくる。
老人映画のメッセージは似通っていて、本作もその類型を抜け出ていないが、秀でているとすれば、女性の描き方か。
サンドラ・ブロック演じるウェートレス、シャーリー・マクレーン演じるアパートの大家さんは、孤独な老いた男たちの気持ちを、性を超えた大きく深い愛で優しく受け止めている。
芯が強くて優しくて、母性的包容力を持ったこの魅力的な女性像には、女性監督らしい優しい目線を感じる。
老いと孤独を真摯に静かに見つめた良作。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!