『ダージリン急行』ウェス・アンダーソン

ゆるい笑いに包まれ解放されていく旅

《公開年》2007《制作国》アメリカ
《あらすじ》舞台はインド。駅を発車しかけている寝台列車・ダージリン急行に飛び乗ろうとする若者がいて、彼を含む三兄弟が車内で落ち合う。
長男フランシス(オーウェン・ウィルソン)は、バイク事故で生死をさまよい、それを機に父親の死以来疎遠だった弟たちと、インドの聖地巡礼の旅をしようと呼び掛けたのだが、父の葬儀にも現れず出奔し、今はヒマラヤの修道院にいるという母親に会うという裏のプランを持っていた。
彼は事故の傷跡が生々しく、顔は包帯に覆われていて、旅の計画と連絡役を秘書のブレンダンに任せていた。
次男ピーター(エイドリアン・ブロディ)は、兄弟から父の遺品の一人占めを批判されていて、一方で臨月を迎えた妻との離婚を考えている。
三男ジャック(ジェイソン・シュワルツマン)は作家で、恋人と別れたばかりの彼は、この旅を途中で抜け出し、元カノと旅行するつもりでいた。そう思いながら、乗車した途端に女性乗務員に手を出すという恋多き男でもあった。
列車は一時停車し、三人は有名な千牛寺を訪れるが、そこでジャックは妻が妊娠中というピーターの秘密を、ピーターは旅を抜け出すつもりだというジャックの秘密を、フランシスにバラしてしまう。
怒ったフランシスが二人のパスポートを奪って、関係がギクシャクしてくる。
フランシスとピーターの殴り合いは何とか収まったが、途中購入した毒蛇が逃げ出すという事件を起こし、三人は次の停車駅で降りるよう命じられる。
次の駅に着く前に、列車は切り替えを間違え迷子状態になってしまい、目的とは違う方向に向かうが、それでも構わず三人は次の駅で降ろされ、次の列車は24時間後と知らされる。
やむを得ず野宿をしようと歩くと、川で流されそうになっている少年たちに遭遇し、助けようとする三人だったが、堰に激突した少年は命を落として、その子を抱きかかえて少年の村へと向かった。
子どもたちを命がけで救った三人は村人に温かく迎えられ、その夜は村で疲れを癒し、村を去ろうとしたところを引き留められて、村に伝わる方式で弔う少年の葬式に参列したのだった。
翌日、三人は空港に向かい、そこでピーターは妻が男の子を出産したことを知る。あとは飛行機に乗るだけだったが、村人との交流で家族の大切さを教えられた彼らは、急遽帰国を変更し、修道院の母親に会いに行くことにする。
母親パトリシア(アンジェリカ・ヒューストン)は子を捨てた過去から来訪を拒絶していたが、驚きながらも温かく迎え、そんな母との再会に三人は嬉しくも切ない、複雑な思いを抱えていた。
なぜ父の葬儀に来なかったかの問いに母は「行きたくなくて」と答え、三人に「もっと自分を自由に表現したら」と言って涙を浮かべた。
翌朝、母の姿は見えず、また旅を続ける三人。駅で走り始めた列車に追いつこうと彼らは走り、今まで持っていた父親のトランクを捨て、身軽になって飛び乗りエンド。

《感想》父親の死と母親の出奔、それ以来心が離れていた三兄弟が、家族の絆を取り戻そうとインドの秘境を旅するのだが、計画した長男には、父の葬儀に出なかった母に会うという裏の目的があった。
その母の毅然とした生き方が、彼らに“真の自由と解放”をもたらす。
母は息子らに「事故は天の摂理で、過去は戻らない」。だから「後悔は捨て、将来の計画を立てよ」と促す。
彼らが持ち運んでいた大量のトランクは、いつまでも引きずっている父親の象徴。だが、母は違った。
父の死去と共に葬儀にも出ずに、何も引きずらずに前へ、未来へと走り出していた。
父親のトランクを捨て去り、三人が列車に飛び乗るラストシーンが清々しい。
出番は少ないのだが、アンジェリカ・ヒューストンの眼力、存在感に圧倒される。身勝手なのだが、「言葉なしに自分を自由に表現する」とこうなる、そんな説得力を備えている。
そう重く受け止めなくても、ゆるい笑いにニンマリし、絵のような風景が楽しめるロードムービーになっている。
そして、冒頭の乗り遅れオジサンのシーンを始め、独特のセンスを持った監督であると強く印象付けられる。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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