『ミステリー・トレイン』ジム・ジャームッシュ

安ホテルで真夜中にエルヴィスが聴きたくなる

《公開年》1989《制作国》アメリカ
《あらすじ》
3編のオムニバス形式で描かれる。
1)FAR FROM YOKOHAMA(ファー・フロム・ヨコハマ)
メンフィスへと向かう列車の中、横浜から来た日本人カップルのジュン(永瀬正敏)とミツコ(工藤夕貴)は大の音楽好きで、ジュンはカール・パーキンスを、ミツコはエルヴィス・プレスリーを特に愛していた。
メンフィスに着いた二人は、エルヴィスのかつての邸宅「グレイス・ランド」に向かおうとするが、道を間違えてカール・パーキンスの録音で有名な「サン・スタジオ」に着いてしまう。
その夜は、壁は薄く、汚い部屋でテレビもない安ホテルに泊まるが、部屋にはエルヴィスの肖像画があり、ラジオから流れるのはエルヴィスの曲で、二人はメンフィスの町に思いを馳せながら、抱き合って眠った。
翌朝、エルヴィスの邸宅訪問に出かけようとすると、1発の銃声が響く。
「銃?」「アメリカだからな」と言葉を交わし、気に留めずホテルを後にした。
2)A GOAST(ア・ゴースト)
航空会社の手違いで、メンフィスでの滞在を余儀なくされたイタリア人のルイーザ(ニコレッタ・ブラスキ)は、金払いの良さを見抜かれ、言葉巧みに大量の雑誌を買わされ、怪しい男にお金をたかられたりした。
ウンザリして彼女が辿り着いたのが安ホテルで、フロントで揉めていた女性ディディ(エリザベス・ブラッコ)と相部屋になる。
部屋でディディは、一緒に暮らしていた恋人に愛想を尽かし、女友達を訪ねるつもりだと話した。
寝物語にルイーザは、昼間聞いたエルヴィスの幽霊を車に乗せたという話をするが、ディディはメンフィスでは誰でも知っている都市伝説だと鼻で笑う。
その真夜中、目覚めたルイーザはエルヴィスの幽霊を見て、眠れないからとつけたラジオからはエルヴィスが流れた。
翌朝出かけようとする二人は1発の銃声を聞くが、気に留めなかった。
3)LOST IN SPACE(ロスト・イン・スペース)
ディディの恋人だったジョニー(ジョー・ストラマー)は今日、仕事をクビになり、おまけに急に彼女に去られ、ヤケになって酒場で酒を煽っている。
慰める友人のウィル(リック・アヴィレス)は、床屋を営むディディの兄チャーリー(スティーヴ・ブシェミ)を呼び出し、三人は車で夜の町に繰り出す。
しかし酒を買おうと立ち寄った酒屋で、黒人のウィルへのあからさまな差別発言をする店主に対し、酔ったジョニーが発砲してしまったことから、事件へと発展してしまう。
動転した三人は車を走らせ、ウィルの馴染みの安ホテルに身を隠すことにし、その夜は酩酊して眠るが、翌朝、事の重大さに気付いて銃で自殺しようとするジョニーと止めに入った二人が揉み合いになり、誤ってチャーリーの足を撃ってしまう。
翌日の列車では、日本人カップルとディディが同じ車両に乗り合わせ、その列車を見送るように、怪我人チャーリーを運ぶ車が走り出してエンド。

《感想》3組の登場人物が、ブルース、ロック、ソウルの聖地「メンフィス」を訪れ、同じ安ホテルに泊まり、エルヴィスの肖像画を目にし、深夜にエルヴィスの歌を聴き、朝には誤って発砲し、他の二組はその銃声を聞く。
それぞれ同時刻に進行していて、時間と場所を共有しながらも、大きな影響を与えることなくすれ違っていくが、この繋がりの仕掛けが絶妙で、乾いた笑いを伴いながら、なかなかに味わい深い。
映画は到着前の列車内から始まり、一夜の出来事が描かれ、朝の列車が発つところで終わる。様々な人が乗り合わせ、そこで出会い別れて過ぎていく、人生は列車に似ていると言っているようだ。
第1話では永瀬正敏、工藤夕貴が若い日本人カップルを演じていて、言葉の通じにくい土地に来てオドオドし、だからこそより密着する様や、「銃? アメリカだからな」というヨソ者の偏見に満ちた割り切り方には、ごく自然なリアリティがあって、過剰な演出を避けるジャームッシュらしさが出ている。
また、使われる楽曲にもジャームッシュのメンフィス愛と強いこだわりが感じられる。流れる音楽と、いつもながらの淡々とした展開に身を任せて楽しむ映画だと思う。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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