『帰れない二人』ジャ・ジャンクー

時代の波に翻弄された愛の行方は

《公開年》2018《制作国》中国、フランス
《あらすじ》2001年の山西省・大同。チャオ(チャオ・タオ)は、炭鉱で働く父の世話をしながら、ヤクザ者の恋人ビン(リャオ・ファン)と暮らしていた。
チャオの夢は、新たな土地で父の家を買い、ビンと家庭を持つこと。しかし父もビンも、石油開発でまもなく炭鉱閉鎖というこの町から離れられない。
ディスコを仕切って羽振りが良く、周囲から一目置かれる存在のビンだったが、慕っている実業家アーヨンが若いチンピラに襲われて殺され、裏社会ではのし上がろうとする若者が台頭し始めていた。
ある夜、チャオとビンが乗る車がオートバイの若者たちに取り囲まれ、大勢の敵を相手にビンの命が危ないと見たチャオは、空に向かって威嚇射撃をした。
その結果、拳銃不法所持で捕まり、真実を語らないまま懲役5年の刑となる。
同じく刑務所に入ったビンの刑は軽いはずだが、一度も面会には来なかった。
2006年、チャオは出所しビンを探しに、以前ビンが世話をして立ち上げたリン兄妹の会社がある奉節を訪ねるが、妹から「今は私の恋人」と告げられ、ビンから真実を聞こうと町に滞在する。
船旅では置き引きに遭ったり、詐欺まがいに食と金を手に入れたり、好色男からタクシーバイクを奪うなどして、チャオはやっとビンに会えた。
ところがビンの態度は冷たく、4年前に出所していたが、何もかも失った孤独の中で生き方を見失っていて、チャオは諦めて彼の元を去る。
チャオは大同に帰る列車で、カラマイから来たというおしゃべりな男(シュー・ジェン)に出会う。男は観光開発の仕事でUFO見学ツアーを企画していると言い、UFOに興味を示すチャオを誘い、チャオは男に付いていく。
だがチャオが刑務所帰りだと話すと、男は観光開発の話は嘘で雑貨屋だと白状し、チャオは眠っている男を残して下車し、その頃UFO 情報で話題になっていたウルムチに向かう。そこでUFOが上空を飛ぶのを目撃し、慰められた。
2017年、ビンと別れて11年が経ち、チャオは大同で雀荘を営んでいて、駅に車椅子で降り立ったビンを、チャオが迎える。酒の飲み過ぎで脳内出血を起こし、車椅子生活になったビンをチャオが引き取ったのだった。
昔の仲間はビンを歓迎するが、既に時代は変わっていて、昔気質のビンは、落ちぶれた我が身と、不自由な体にいらだち揉め事を起こす。
なぜ俺を引き取ったかと尋ねるビンにチャオは、「何の感情もない。渡世の義理」と答える。
チャオの勧めでリハビリを始めたビンは、次第に杖で歩けるようになり、穏やかな日々を過ごしたが、2018年の元旦、「出て行く」とだけメッセージを残して、ビンはチャオの前から再び姿を消した。

《感想》21世紀に入ってからの中国の激変ぶりと陰の部分が描かれる。
石炭から石油へのエネルギー転換で炭鉱都市では多くの失業を生み、大規模水力発電ダムの建設では町が沈み、油田開発で内陸都市が急速に発展し、その繁栄は北京オリンピックへと続く。
急激な経済発展と歴史のうねりの中で、男が生きた裏社会の濃密な人間関係は消え、時代の波に乗れない昔気質の男は堕ちていって、支えようとする女との関係に溝が出来てすれ違うが、それでも女はしたたかに生き愛し続けた。
いかつい男が落ちぶれていく様をリャオ・ファンが、一途でいじらしい女をチャオ・タオが、それぞれ18年の年輪を演じ切っている。
それは意地の張り合いのようで、男気に溢れた男だからこそ我が身の情けなさはひとしおで、そんな男の気持ちを解すればこそ、女は無理に追わず男の気持ちに寄り添う、切なさ一杯の二人だった。
また、前々作『罪の手ざわり』では任侠映画のパロディ風演出を見せたが、本作でも随所に遊び心が見える。
女好き金持ち男を脅して金をせしめ、好色運転手をだましてタクシーバイクを奪い、UFO男に導かれてUFOに出会う、等々。
何があってもたくましく生き抜くヒロインのエピソードには、思わず笑わされホッとする可笑しさがある。
なお、ディアオ・イーナン(『薄氷の殺人』)ら同志のような4人の監督がカメオ出演していて、溶け込んだ演技を見せている。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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