『長いお別れ』中野量太 2019

介護、家族、愛。人の繋がりを思う

《あらすじ》2007年。東京郊外に住む東昇平(山崎努)は中学校長として、妻の曜子(松原智恵子)との間に二人の娘をもうけ、今は妻と二人で暮らしている。
長女の麻里(竹内結子)は海洋生物学者の夫、息子の崇と共に、夫の赴任先であるカリフォルニアに住んでいる。
次女の芙美(蒼井優)は得意の料理で将来カフェを開くことを夢に、今はスーパーの惣菜部門で働いている。
麻里は外国生活にうまく馴染めず、また研究一筋で家庭を顧みない夫との間に溝が出来、芙美は夢破れて故郷に帰るという同棲中の彼氏と別れたばかりだった。
曜子は昇平の70回目の誕生日を口実に、娘二人を実家に呼び寄せるが、名前を間違えたり、急に怒鳴り出す父の姿に驚く。半年前から認知症の症状が現れていた。
2009年。芙美はフードトラックでカレーを売る商売を始めるが、上手くいかない。そんな折、母に頼まれ、昇平の友人の葬式に付き添うが、だんだん奇妙な言動が目立つようになっていた。
アメリカの麻里は夏休みを利用して母子で帰国するが、留守番の崇が寝ている間に、昇平が家を出てしまい、芙美の同級生・道彦(中村倫也)に助けられ、この出来事で芙美は道彦に再会する。
2011年。芙美は道彦と交際し、彼の母が営む食堂で働いていて、道彦の母は芙美と結婚することを望んでいた。
しかし道彦には離婚した妻との間に娘がいて、久しぶりに娘に会える日、彼が母、元妻、娘と楽しげな様子を目の当たりにした芙美は、ここに自分の居場所がないことを悟り、道彦と別れ、食堂も辞めてしまう。
震災が起きて、アメリカの麻里は日本の家族を心配するが、個人主義の夫は関心を示さず、崇は両親の不仲と、異性の悩み事から口を利かなくなっていた。
昇平の症状は進み、スーパーで万引き騒ぎを起こす。また、徘徊対策でGPS機能付き携帯を持たせていたが、今回行った先は、家族思い出が詰まった遊園地のメリーゴーランドだった。“あの頃”に戻りたいようだ。
2013年。昇平の症状は更に悪化し、それを支えてきた曜子が網膜剥離で手術入院し、芙美が家で昇平の介護に当たるが、慣れない作業に疲れ切ってしまう。
一方の麻里は、不登校の崇と家庭を顧みない夫の悩みを抱えていたが、学校の担任から、両親の不仲に原因があると指摘され、麻里は夫に思いをぶつけ、夫も事態改善に目覚める。
昇平は入院を余儀なくされ、やがて意識不明の状態に陥る。帰国した麻里を加えて四人、病室で昇平の誕生日祝いを行うが、寝ながら笑みを浮かべた昇平は、それから間もなく息を引き取る。
アメリカでは崇が学校長との面談で、祖父の死を伝え、アメリカでは認知症のことを“長いお別れ”と呼ぶのだと聞いて、改めて祖父への思いを馳せる。

《感想》父の認知症が進んで、本人が家族を忘れてしまっても、家族にとって父の存在が失われることはない。
それは「父が父でなくなっていく」にも関わらず、「父である」という現実は、家族という確かな“繋がり”の中で築かれたものだから。
そして家族はそれぞれに“繋がりたい”思いを抱えている。
長女は馴れない外国生活で周囲と繋がれず、夫や子どもと溝が出来てしまうが、それを乗り越えようと自らの思いを家族にぶつける。
次女は離婚歴のある男性と恋仲になるが、彼の前家族との強い繋がりを目にして、引いてしまう。でも他者から繋がりたい思いが舞い込んできそうな予感がする。
介護を巡る家族の苦労譚が軸なのだが、その娘たちが家庭や恋愛で、他者との繋がりに悩み、繋がらない切なさを味わう、そんなエピソードが絡む。
努めて明るく軽く描いているようで、その眼差しは温かい。
過去の作品に比べると穏やかな展開とエンディングで、そこに同監督の円熟を見るが、原作持ちの縛りゆえか、ある種の破天荒さが失われたことに、やや寂しさを覚えた。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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