『第三夫人と髪飾り』アッシュ・メイフェア

虐げられた時代の女性の悲哀を描く

第三夫人と髪飾り

《公開年》2018《制作国》ベトナム
《あらすじ》19世紀のベトナムの山村。14歳のメイ(グエン・フオン・チャ―・ミー)は、裕福な地主の第三夫人として嫁いだ。
まだ大人とは言えず、子どもが抜け切らないメイだったが、初夜の儀式を終え、翌日には処女であった証として血の付いた布が飾られた。
第一夫人のハ(トラン・ヌー・イエン・ケー)、第二夫人のスアン(マイ・トゥー・フオン)から地主の家でのしきたりや仕事、夜の営みまで手ほどきを受け馴染んでいく。
男子の誕生が最も期待されるところで、男子を生んだ第一夫人は「奥様」と呼ばれるが、女子ばかりの第二夫人はそう呼ばれない。男子を生めば地位が向上する。
そしてメイは妊娠した。
ある日、メイは山の中で隠れて愛し合う男女を目撃する。
後日、その男は鞭打たれ、女は剃髪して寺に連れていかれた。密通は罪なのである。
メイの妊娠中、主人の寵愛を受けて、ハが懐妊する。
メイは寺にお参りの際、男子が授かるように、そしてその子がこの家の最後の男子であるように祈った。
その後、ハが流産し、メイは罪悪感に苛まれる。
ハの息子でこの家の長男・ソンの結婚式が近づくが、ソンは父の第二夫人のスアンを愛し性関係もあって、結婚を拒絶している。しかし、親同士の意向で進められ、相手の顔も知らずその日が来るが、本人は一人酔い潰れてしまう。
ソンの結婚初夜、花嫁となる少女は初夜のしきたりの道具を差し出すが、ソンはそれを拒絶し、彼女に指一本触れずに無視して、彼女を悲しませた。
そんな状況から、この家の主人は少女の親に破談を申し入れるが、少女の親は「家名に泥を塗った」と激怒して、破談を拒んで去ってしまう。
両家から拒絶された少女は首を吊って自殺し、時を同じくしてメイは女の子を出産する。
赤ん坊をあやしながら、メイは葬儀に参列した。
そして泣きやまない赤ん坊に必死に耐えていたメイだったが、涙を流し、赤ん坊に毒草を与えた。
「大きくなったら男になりたい」と願っていたスアンの娘が、長い髪を自分で切り落とし、川に流してエンド。



《感想》かつて、一夫多妻が認められ、女性が出産の道具とみなされていた時代に生きた、抑圧された女性の感情、悲哀を、美しい風景と共に淡々と描いている。
それも女性同士の確執や嫉妬という対立した世界ではなく、むしろ不思議なほど仲睦まじく、静謐、寡黙な世界に、女性の情感が漂っている、そんな印象を受けた。
蚕の成長するシーンが度々登場するが、これは女性の成長と重なるのだろう。
また、家畜の出産や、食に供される鶏の様子も描かれる。何事も運命であり、生のはかなさ、無常を伝えたかったのだろう。
結局、居場所を失った少女は縊死し、女児の将来を悲観した幼い母は殺そうとする。死をもってしか意志表示できない、女として生きることの絶望感に溢れている。
ラストで、男になりたいという少女は自らの髪を切って川に流した。
これは理不尽な古い因習や女性の地位へのプロテストであり、彼女らの意識の変化が後の女性の地位向上につながる、そんな希望を託したメッセージと受け止めた。
だが、はかなさ、痛々しさの方が勝って、少し息苦しかった。
ベトナム出身の若手女性監督の長編デビュー作で、静かで粘性を帯び力強い意志を秘めた作風は、やはり女性のものかと思う。

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投稿者: むさじー

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