『ファントム・スレッド』ポール・トーマス・アンダーソン

一途で怖い屈折愛は理解を超えるが美しい

《公開年》2018《制作国》アメリカ
《あらすじ》1950年代のロンドン。レイノルズ(ダニエル・デイ=ルイス)は、社交界のセレブから皇族まで顧客にする大物ファッションデザイナーで、姉のシリル(レスリー・マンヴィル)と共にファッションブランドを運営している。
郊外の別荘に向かう際に立ち寄ったレストランで、レイノルズはウェイトレスのアルマ(ヴィッキー・クリープス)にモデルとしての資質を感じて一目で見初め、またアルマも紳士的なレイノルズに惹かれ、二人は夕食を共にすることになる。
レイノルズとアルマの交際が始まり、アルマはショーのモデルとして才能を見せ、やがてレイノルズのアシスタントになり、身の回りの世話を焼くようになる。
しかし、彼の仕事への没頭ぶり、物音にも敏感に反応する神経質さは異常なほどだった。
顧客の資産家バーバラが再婚するため、その結婚式用ドレスの注文を受け、二人はその結婚式に招待されるが、酔って醜態を晒し酔い潰れてドレスを台無しにしたバーバラに「着る資格がない」と激怒したレイノルズは、同感のアルマと共に、バーバラからドレスを取り返し帰ってしまう。
そのことで二人の愛は深まったかのように思えた。
次にレイノルズはベルギー王女・モナのウェディングドレスの注文を受け、美しい王女に嫉妬を覚えたアルマは、レイノルズを喜ばそうと、サプライズの夕食作りを企画する。
しかし、帰宅したレイノルズは落ち着かず不機嫌で、嫌いなバターが使われていたため文句が出て、二人は口論し、アルマも日頃の不満をぶちまける。
激昂したレイノルズの「元いた場所に帰れ」の言葉にも、出て行くことはなかった。
翌日アルマは反撃に出て、毒キノコの粉末をレイノルズの紅茶に混ぜる。
この日は王女のドレスの最終確認の日で、その最中にめまいを起こしたレイノルズが倒れ、寝込んだレイノルズをアルマは懸命に看病し、傷んだドレスはシリルが指揮して徹夜で完成させた。
夢うつつのレイノルズは、看病するアルマに亡き母のぬくもりを感じ、翌朝体調の回復と共にアルマにプロポーズして、アルマもそれを受け入れた。
結婚によってアルマには余裕が生まれ、輝きを増して他の男性と話す彼女にレイノルズは嫉妬の感情を抱く。
結婚によって自分のペースを乱され始めたレイノルズは、アルマへの不満をシリルに語り、それを陰で聞いたアルマはある決意をする。
毒キノコ入りのオムレツをレイノルズに出し、それを一口食べたレイノルズは、無言で怒りの表情を浮かべるが、それに対しアルマは「あなたには倒れてほしい。私だけ救いたい」と呟き、レイノルズは「倒れる前にキスしてくれ」と答え、二人は愛を確かめ合った。
そしてアルマは彼との将来を夢想する。ベビーカーを引き、ダンスをし、ドレスを管理し、病人レイノルズを看病して、レイノルズとの愛を完成させたかのような表情でエンド。

《感想》神経質で偏屈な芸術家肌の男と、モデル、マネキンに過ぎなかった女が愛し合い、徐々に立場が逆転していく。
一見、相手より優位に立つ、相手を制圧するための闘いのように見えるが、自分の気持ちに正直に愛を求めると、こんな形もあるかな、という気はする。
最後の食事シーン。毒キノコ入りオムレツを食べさせる女と、知りながら食べようとする男は、言葉もなく視線を交えて、互いの気持ちを確かめ合う。
レイノルズは初老のマザコンで、弱った自分に元気を与えてくれるアルマに母の幻想を求めた。
アルマはレイノルズの全てを愛したがゆえに、「彼にとって必要な人間、絶対的救済者」であることを願い、「弱っていれば従順」な男を看病する母のように包んだ。
何とも壮絶な愛の形で、多様な解釈ができそうな映画である。
多くの観客にはマザコン男と独占欲女の屈折した愛としか映らないが、二人だけの愛の真相はもっと別にある気がして、深読みを誘う。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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