『ある女流作家の罪と罰』マリエル・ミラー

捏造作家の転落と再起、そして孤独

ある女流作家の罪と罰

《公開年》2018《制作国》アメリカ
《あらすじ》著名人の伝記本執筆で作家としての地位を得ていたリー・イスラエル(メリッサ・マッカーシー)は、作家としてのスランプとアルコール中毒が重なり、現在は家賃を滞納する程の窮乏生活をしている。
ある日、バーで飲んでいると刑期を終え出所したばかりのジャック・ホック(リチャード・E・グラント)に再会する。
飼い猫の具合が悪く診察料を工面したいリーは、かつて伝記を書いたキャサリン・ヘプバーンからの手紙を売ろうと、書店主アンナ(ドリー・ウェルズ)の元に持ち込み、予想以上の値段で買い取ってもらえた。
これに味を占めたリーは、著名人の手紙を捏造して売り始め、そのお金で猫の病気治療をし、滞納家賃を支払うことが出来た。
リーとジャックの友達付き合いが始まり、ジャックに秘密の詐欺行為の話をしたり、ジャックがリーの部屋の掃除を手伝うなど親密になって、宿無しのジャックに部屋のソファーを提供する。
また、かつての自分の才能を認めていたアンナは、リーに親切に接してくれ、夕食を共にし、アンナが書いた短編小説をリーに預けるまでになっていた。
しかし、リーが売った手紙が偽物ではないかと疑いをかけられるようになり、取扱店からはもう買わないと宣告され、FBIも動き出して、売る手立てが断たれてしまう。
リーが留守にした折、同居するゲイのジャックが同性の恋人を部屋に連れ込み、任していた給餌の過失で愛猫が死んでしまい、家に戻ったリーは取り乱し、ジャックらを追い出してしまう。
その後、盗品を売りさばこうとしたジャックが逮捕され、リーも捕まって裁判の席で言う。
「手紙は自信の持てる作品だが、私の作品ではない。自分の作品で勝負する、批判を浴びる勇気がなかった。猫も友達も失い、作家でないことに気づいた」
と。執行猶予5年、自宅軟禁6か月だった。
時が過ぎ、リーとジャックが再会した時、ジャックはエイズに蝕まれていた。
リーはジャックに、一連の出来事とジャックのことを書きたいと伝え、薬で弱り切ったジャックはうなずき、二人は微笑み合った。
そしてリーが、偽造した手紙を鑑定書付きで売っている店主に皮肉の手紙を送りつけてエンド。



《感想》かつての売れっ子作家は窮乏をしのぐため、著名人の手紙を捏造して売りさばくが、文章は自分の創作なのでさほど罪悪感は抱かず、他人に成りすまして書いた手紙が「自分の作品」以上に評価されるという、皮肉で後ろめたい満足感を得てしまい、詐欺行為がエスカレートしていく。
サインは真似ても、手紙の内容は自分のオリジナルだから「作品」であって、偽装ではあっても贋作ではないという、変な理屈で自分を納得させていたのではないか。
それでも罪を背負い、罰を受けて、全てを失ったとき、「自分だけの物語を書きたい」と筆を起こそうとする。
リーの自戒から発してはいるが、自分が犯した罪をネタに本を書こうとする、物書きの性(さが)のようでもある。
原題を邦訳すると「私を許してくれますか?」。
一緒にいてくれたゲイの友人、信頼してくれた書店主、そして愛する猫。
そばで寄り添ってくれた、そんな大切な人たちに向けた言葉であり、切ない現実を描きながらも、温かく締めくくっている。
リーの眼力に秘めた怒りと悲しみ、ジャックの生きづらさを隠した道化、二人の感情を抑えた演技が光る。
特にラストシーン。ボロボロになった者同士の人生がクロスして、互いにエールを送るかのように交わした切ない微笑みが、余韻を一層温かいものにしてくれる。

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投稿者: むさじー

映画レビューのモットーは温故知新、共感第一、良品発掘。映画は広くて深い世界、未だに出会いがあり発見があり、そこに喜びがあります。鑑賞はWOWOWとU-NEXTが中心です。高齢者よ来たれ、映画の世界へ!