軽くて笑えて感動する林業入門映画
《あらすじ》大学受験に失敗し、進路が決まらないまま卒業を迎えた高校生・平野勇気(染谷将太)は、ふと目にしたパンフ「緑の研修生募集」の表紙で微笑む美女に惹かれ、三重県で行われる1年間の林業研修プログラムに軽い気持ちで参加する。
研修は携帯の電波も圏外という、ローカル線を乗り継いだ山あいの村で、パンフの女性の写真は“イメージ画像”とのことだった。
林業志望の若者らと共に、林業に従事する飯田与喜(伊藤英明)らの厳しい指導を受け、1か月の基礎研修が終わる頃には研修生は3分の1以下に減っていた。
その後は実際の事業所で1年間の実地研修を積むことになり、勇気が配属されたのは与喜が働く神去村の中村林業だった。
マムシも虫も多い山村の暮らしは、都会育ちの勇気にとって災難の連続だが、林業の大切さを学ぶことで少しずつ成長していく。
だが想像を絶する現場の過酷さに逃げたいと思い始めた頃、勇気はパンフのモデルの女性で小学校教師の石井直紀(長澤まさみ)に出会い、思い留まる。
林業の仕事に馴れてきた頃、勇気の元カノ率いる大学の「スローライフ研究会」のメンバーが勇気の元に研修にやってくるが、みな旅行気分で、どこか林業を見下すような物言いに、勇気は怒りを露わにして大学生を追い返し、与喜は勇気を見直した。
この村では毎年祭りが行われるが、今年は48年ぶりの大祭に当たり、参加するのは杣人(そまびと)という山の男だけなので、勇気を参加させるか否か、村の会合で議論がなされ、意見は相半ばしていた。
しかし、地区会長の孫が山に入って行方不明になるという事件が起こり、村人の捜索の中、勇気は何者かに手をつかまれ、導かれた先で迷子の孫を見つけるという不思議な体験をする。
会長の孫を救助したことで村人に認められ、祭りへの参加が決まる。
祭りのイベントは御神木に鋸を入れ、伐り出した大木をジェットコースターのように滑らせて山の下のワラに当て、五穀豊穣と子孫繁栄を願うものだった。
ところが参加した勇気の足に縄がからまって大木から離れられず、勇気は大木に乗ったまま一気に山を下るが、祭りは大成功に終わった。
1年の研修を終え、泣きの別れをして山を下りた勇気だったが、都会の喧騒に困惑し、木の持つ魅力が忘れられずに、再び神去村に戻った。
エンドロールで、妊活中だった与喜の妻が懐妊し、次の募集パンフの表紙を飾るのが勇気になったことを告げる。
《感想》軽いノリで参加した研修から林業の魅力にハマっていく若者を描いているが、林業の厳しさはあくまでシリアスに、若者の挫折や失敗は笑いを交えて軽妙に、この緩急のバランスがいい。
そして林業を営む男たちの山への信仰心、林業の奥深さに加え、村人の日々の喜び、優しさや温かさが素直に伝わってくる。
「なあなあ」とは神去村の言葉で「ゆっくりと、落ち着いて、のどかに」のような意味らしい。
何より出演者がみな林業の世界にハマっているのが見所で、高所での枝落としや、大木と一緒に山下りするシーンは結構な迫力である。
染谷の軽さと、長澤の少し粗っぽいヒロイン像も魅力だが、伊藤の男気溢れるたくましさとコミカルな演技のバランスの良さが光る。
元来軽めの青春コメディ映画を得意とする監督だが、本作には更に深みが加わっていて、これは三浦しをんの原作に負うところかも知れない。
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