古来の風習で向き合う家族と自分自身
《あらすじ》沖縄諸島の一つ、粟国島では新城信綱(奥田瑛二)の妻・恵美子が亡くなり、東京の大企業に勤める息子の剛(筒井道隆)、名古屋の美容院で働く娘の優子(水崎綾女)が島に駆け付け、伯母の信子(大島蓉子)と共に葬儀参列者の対応に追われていた。
それから4年、洗骨のため再び親族が集まる。
洗骨とは、遺体を棺のままホコラに納めて風葬し、数年後に白骨化した骨を縁者によって海水で洗い清め、死者との命の繋がりを再確認すると共に、改めてあの世へ送り出す、沖縄の一部の離島に残されている風習である。
一人暮らしの信綱は未だに妻の死が受け入れられず、酒浸りのだらしない生活を送っていて、そこへ臨月間近の優子と、妻子を東京に置いて来た剛が訪れた。
早速、優子のお腹の子の話が親戚だけでなく近隣の話題になり、優子は「勤務する美容室店長との子で、シングルマザーで育てるつもり」と宣言する。
剛は怒り、信綱は黙っているだけだった。
そこへ、優子のお腹の子の父である店長・神山(鈴木Q太郎)が謝罪と挨拶に訪れる。
その夜更け、一人で酒を飲んでいた信綱が酔い潰れて、割れた瓶で額を切って、剛と優子が慌てて病院に運び事なきを得るという事故が起きる。
帰り際に剛は信綱に「自分だけ辛いと思うな」と、信綱の借金を肩代わりしたこと、母親が苦労して死んだことを責めた。
ある日、スク(小魚の群れ)がやって来たという知らせがあり、男たちは海に入り網を操り、力を合わせてスクの水揚げに成功する。
その帰り、剛は妻と離婚したことを皆に打ち明けた。
洗骨の前日、剛と信綱は優子に髪を切ってもらう。また信綱は信子に、かつて経営した工場跡に連れられ「現実に向き合え」と諭される。
洗骨当日、新城家の親族は恵美子が風葬されている浜へと向かい、4年ぶりに棺の蓋を開け、風化した恵美子の骨を取り出した。
皆で恵美子の骨を海水で洗い清め、再び埋葬しようとしたその時、急に優子の陣痛が始まり、彼女を助けようとした信子が、ぎっくり腰で動けなくなってしまう。
それでも信子は横になったまま優子を励まし、信綱に指示をして、その場で優子の出産を無事終えた。
信綱が恵美子の頭蓋骨を赤ん坊の近くに寄せ、「祖先とはつまり自分自身である」というナレーションでエンド。
《感想》洗骨とはどんな儀式か、興味から入る人が大半だろう。バラバラになった家族が伝統的風習によって、また一つになり絆を深めるという意味があるらしい。十分に理解できないながらも、厳かな気持ちになる。
風化した骨をどう見せるのか、怖いもの見たさで惹き込まれたが、落胆と安心が半々だった。見せ方としてはこれが限界かと思う。
全編シリアスなタッチの中に笑いを添え、本来ならオドロオドロしくなりがちなテーマだが、重くなり過ぎないよう配慮している。
そのバランスがいいし、良く出来た脚本だと思う
ただ、そのボケを店長役のQ太郎一人に負わせて、彼一人が浮いた存在になってしまったこと、ドタバタの笑いに作り過ぎの感があって、やや残念に思えた。
何より役者陣の演技が熱い。ブリーフ姿に哀愁が漂う奥田、目力に母となる強さが滲む水崎、沖縄のオバアそのものの存在感・大島、みな沖縄の風土に溶け込んでいる。
お笑い芸人を本業とする監督の長編第1作とは思えない完成度である。
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