『天才作家の妻 40年目の真実』ビョルン・ルンゲ

自尊心の対立が熟年夫婦の危機

《公開年》2019《制作国》スウェーデン、アメリカ、イギリス
《あらすじ》1992年、世界的作家となったジョゼフ(ジョナサン・プライス)の元に、ノーベル文学賞受賞の知らせが届き、妻のジョーン(グレン・クローズ)と共に歓喜する。夫婦には、出産を間近に控えた娘スザンナと、作家志望の息子デビッドがいた。
授賞式に向けて夫婦とデビッドはスウェーデンに向かうが、機内でジャーナリストのナサニエル(クリスチャン・スレーター)にしつこく付きまとわれ、それは宿泊のホテルにまで及んだ。
〔回想〕1958年、小説家志望のジョーン(アニー・スターク)は、既婚で大学教授のジョゼフ(ハリー・ロイド)に文才を認められて親しくなる。
〔現在〕ホテル内は祝福ムードに包まれるが、ジョゼフから半人前扱いのデビッドは父に反発し、ジョーンからは「私への感謝は述べないで」と釘を刺される。
翌日、ジョゼフは授賞式リハーサルに向かい、別に外出したジョーンは、ナサニエルの取材攻勢に会ってしまう。
夫婦の過去を調べたナサニエルは、ジョゼフの作品がジョーンとの結婚後に良くなっていて、代筆ではないかと疑念を抱いていた。
一方のジョゼフはリハーサル中に体調を崩すが、密着取材の若い女性カメラマンに興味を示し浮気癖が出る。
〔回想〕ジョゼフから求愛されたジョーンは、彼が既婚であること、女性が作家として成功する難しさを思い、将来に悩む。
〔現在〕ホテルの部屋で、ジョゼフはジョーンの遅い帰りを心配し、ジョーンはジョゼフと女性カメラマンの関係を疑い夫婦喧嘩を始めるが、そこに娘から無事出産の知らせが入り仲直りをした。
ところが、ナサニエルが今度はデビッドに近づき「ジョーンがジョゼフのゴーストライター」と吹き込んだため、家庭内に波風が立ってしまう。
〔回想〕1960年、ジョーンとジョゼフは一緒に暮らし始め、ある時ジョーンがジョゼフの小説を批判してジョゼフを怒らせるが、その指摘が的を得ていると感じたジョゼフは、「小説を直したい」というジョーンの申し出を受け入れることにした。
やがてジョゼフの著作が認められ二人は大喜びするが、結婚して子どもが出来ると、子どもを書斎から追い出して、ジョーンがこもって執筆するようになる。
〔現在〕ノーベル賞授賞式のスピーチで、ジョゼフは妻を称え、全てを妻への感謝に費やし、会場は拍手に包まれるが、ジョーンは逃げるように席を立ってしまう。
二人はホテルに戻り言い争う。ジョーンは「(疑惑の目を向けられ)自分だけ傷ついたフリをしないで」と言い、ジョゼフは「私も苦しかった」と心情を吐き出す。その口論の最中、ジョゼフが心臓発作を起こし突然倒れてしまう。
「愛している」と言うジョーンに、ジョゼフは「ウソつき。本心が分からない」と言い、意識を失い死亡した。
帰りの機中、お悔やみを言うナサニエルに「あなたの憶測は事実ではない。夫の名誉を傷つけたら訴える」と言い、隣のデビッドには「家に帰ったら姉を呼んで本当のことを話す」と告げた。

《感想》ノーベル文学賞受賞の文豪の著作が、実は妻の代筆だった。
代筆の動機は夫の成功を願ってのことで二人して喜ぶが、ジャーナリストから疑惑の目を向けられ、夫婦間に亀裂が生まれる。
夫は妻に依存し感謝しながらも自尊心を傷つけられ、それでも社会的虚栄心は捨てられず、妻を“糟糠の妻”に仕立てようとするが、妻はそんな評価を受け入れられなかった。
妻にとっては、正体を隠してこそ成り立っていた社会的栄誉であり、女性の社会進出が難しい時代にあって、何の見返りが無くても小説を書き続けたい芸術家としての矜持を持っていたが、受賞後の夫の偽善的態度に怒り、次第に自分が本当は何を望んでいるのか分からなくなってくる。
社会的成功の裏に隠れた夫婦それぞれの自尊心が火花を散らす心理劇であり、普遍的な夫婦関係や親子の確執などが描かれる家族ドラマである。
心の奥底にしまったはずの自己顕示欲が頭をもたげてくる、その情念や葛藤、複雑な感情を抑えて演じるグレン・クローズが凄い。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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