『情事』ミケランジェロ・アントニオーニ

許されぬ愛に潜む虚無と孤独

《公開年》1960《制作国》イタリア
《あらすじ》ローマの上流階級の令嬢アンナ(レア・マッサリ)には建築家のサンドロ(ガブリエリ・フェルゼッティ)という恋人がいるが、永い春の倦怠感からかアンナは不安と焦燥を憶え、二人の関係はどこか不安定なものになっている。
夏の終わり、二人はアンナの親友クラウディア(モニカ・ヴィッティ)を誘い、多くの友人たちと共にシチリア島近くの群島にヨット旅行に出た。
そして無人島に上陸したとき、突然アンナの姿が消えてしまう。
サンドロとクラウディアは、友人たちと共に荒涼とした島の中を必死に捜したがアンナは見つからず、事故で溺死した様子もない。
捜査は打ち切られたが、サンドロとクラウディアは生きていることを信じて捜索を続け、アンナの失踪によって近づいた二人は、だんだん離れ難くなっていく。やがて結ばれて情事の旅を続けるうち、二人の念頭からアンナのイメージは薄れていった。
しかしクラウディアは、サンドロに惹かれながらも、アンナが現れるのではないかという不安と、サンドロにとって唯一無二の存在なのか、それともアンナの身代わりなのかという不安を抱えていた。
また、以前は理解できなかったアンナの漠とした不安感を、今度は自分が抱え込んでしまったことに気付くのだった。
そして、新しいカップルとして友人たちに迎えられたパーティーの夜、その不安は現実のものとなる。
サンドロは朝まで帰らず、待っていたクラウディアは不安になって捜し、別の女と戯れるサンドロを目撃する。
クラウディアは絶望し、サンドロも自分の裏切りの行為に溢れる感情を抑えられず、戸外のベンチで一人泣いた。
その肩を後ろからクラウディアがそっと抱いて、エンド。

《感想》浮気男には令嬢の恋人がいたが、令嬢が謎の疾走をして、それを捜すうち令嬢の女友達と浮気男が深い中になり、女友達には次第に令嬢に出てきて欲しくない気持ちが芽生えていく……というメロドラマ。
全てはサンドロという浮気男に起因するのだが、惹かれていくクラウディアの微妙な気持ちの変化と葛藤が描かれ、恋愛関係の不確かさ、人間関係の危うさ、そして人間の気持ちは移ろいやすいものと説く。
だから“愛の不毛”を描いたものと解されているが、そればかりではない。
ラスト、サンドロに裏切られ絶望したクラウディアは、自身の行いに落ち込んで泣きだしたサンドロに、手を差し伸べ慰めている。
人間誰もが不徳の心根を持った弱い存在であり、その弱さに気づいて涙するサンドロに対し、クラウディアが示した赦しと憐憫の情、それは自身も抱えている、男の虚無や孤独への共感なのだろう。
そして一見、ダメ男と裏切り女の不埒なメロドラマに映るが、今なお名作として支持されるのは、ダメ男との“許されぬ愛”に惹かれていく彼女の孤独、誰しもが抱く心の揺れに多くの人が共感を寄せるからだろう。
古さを感じさせないのは、案外人間の本質に迫っているから、と思える。
モニカ・ヴィッティのアンニュイな美しさは“刹那的に揺れ動くヒロイン”に良くマッチしている。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です