人生折り返しで、立ち止まり迷う
《あらすじ》40歳間近の同級生・瑛介(長谷川博己)と光彦(渋川清彦)は、中学生の頃に埋めた缶を掘り出そうと、スコップを持って山道を登り、目指す大木にたどり着く。
その3か月前、製炭所を営む絋(稲垣吾郎)は、長いこと音沙汰のなかった瑛介が突然町に帰ってきたのを見かけ、その夜、光彦を含め仲の良かった三人は酒を飲んだ。
絋には妻・初乃(池脇千鶴)と息子・明(杉田雷麟)がいて、明は子どもに無関心な絋に反抗的で、また悪い仲間からいじめられているらしく、初乃は息子の心配と、受注が減ってジリ貧の家業の先行きを心配している。
瑛介は海外派遣されていた自衛隊を退職し、妻子と別れて戻ってきたという。
職のない瑛介は絋の仕事を手伝うようになり、木の伐採から運搬、炭焼きまで全て一人でこなす絋に驚く。そして夜になると三人は、昔のように酒を飲み、海辺に出てはしゃぐのだった。
数日後、明が万引きで補導され、警察の調べに仲間のことを黙秘したので、これで仲間と対等になれたと信じる明に絋は落胆するが、明も絋に失望していて二人の溝は深まるばかりだった。
しかし、明に対するいじめは止まず、その現場を通りかかった瑛介は少年らを威嚇して明を助け、自衛隊仕込みの戦い方を明に伝授する。
そして、光彦が営む中古車販売店でヤクザな客が暴力を振るうという事件が起こり、その場を通りかかった絋と瑛介が助けに入るが、瑛介は容赦なく相手に襲いかかり、過度な攻撃性を見せつけた。
その夜、絋が瑛介宅を訪ねると「自分がよく分からない」と言い、翌日、瑛介の姿は消えていた。
数日経ち、目撃情報を頼りに漁港に向かった絋は、船上で作業する瑛介に再会する。
瑛介は、かつて部下が“コンバット・ストレス”から海で自殺し、責任を感じてウツになり退職したのだった。
瑛介は「俺の責任だが、(世界を知らない)お前らの責任でもある」と言い、絋は「こっちも世界、いろいろあるさ」と言い返す。
そして今日も一人、絋が山で炭焼きしていると、急に胸が苦しくなって地面に倒れ込んでしまう。
その頃、明は瑛介に教わった通り不良たちに戦いを挑んでいて、取り巻きを片付けてリーダーにも認められるようになっていた。
初乃は炭の売り込みに行った帰りの電車で絋が倒れたことを知らされ、病院に駆け付けたが、絋の意識は既になかった。
瑛介と光彦はショックを抱えたまま葬儀に臨み、明は取り乱す初乃を必死に押さえ気丈に振る舞うのだった。
(オープニングに戻り)瑛介と光彦は昔埋めた缶を掘り出し、中のタバコ、生徒手帳、写真を確認し、また埋め戻した。
そして数年後、炭焼き小屋では明が炭焼きをし、夢見ていたボクシングのサンドバッグを打ち始めて、エンド。
《感想》人生半ばに差しかかった男たちが、今までの人生を振り返り、残りの人生をどう生きるか、友情や家族のあり方を交えて、葛藤する様が描かれる。
『半世界』というタイトルは、写真家・小石清の写真集に由来するという。
戦意高揚を煽るべき従軍カメラマンだった小石が撮ったもう一つの世界は、現地の老人や子ども、動植物だった。
広く社会に目を向けた世界という発想もあるが、小さな営みの集合体も世界であって、人は半分ずつ違う世界で生きている、ということらしい。
本作に沿えば、瑛介には「地球規模の自衛官だった世界」と「海の上が落ち着く自分の世界」があり、絋には「片田舎で伝統産業を継承する世界」と「問題息子との関係に悩む父親の世界」がある。
社会に向けた顔と、内なる自分の顔でもあるのだろう。
苦悩しながらも精一杯生きようとする中年男たちの生き様を、淡々と描いたやや地味すぎる良作。
笑いがあり哀愁が漂っていて、重くなり過ぎず後味は悪くない。
オーラを消したオッサンらもいいが、池脇の超自然な存在感が光る。
※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。