余命短い男二人が天国の扉を叩くまで
《公開年》1997《制作国》ドイツ
《あらすじ》ギャングのボス・フランキーの命令で、子分のヘンクとアブドゥルはベンツ車を大物カーチスに届けるため出発するが、途中で子どもを撥ねてしまい、病院に連れて行った。
同じ頃病院を訪れていたマーチン(ティル・シュバイガー)は脳腫瘍で余命わずかと告げられ、末期の骨肉腫のルディ(ヤン・ヨーゼフ・リーファース)と同室になる。
テキーラを呑みながら話すうち「海を見たことがない」ルディに、「それでは天国で話題についていけない」とマーチンが言い、海を見に行こうと二人して病室を抜け出した。
たまたま駐車場に停めてあったヘンクたちギャングのベンツに乗り込んで出発するが、車を盗られたギャングは車を取り戻すため、同型の中古を買おうとディーラーに出向く。
病院を抜け出したが無一文のマーチンらは、車内に残されていた銃を使い、給油をし、金を奪い、服と靴を買いに行くが金が足りず、仕方なく銀行強盗で金を奪って洋服屋に支払った。
その直後にギャングが銀行を襲うが、既にお金は無く、警察に追われるはめになる。
やがてマーチンらはトランクの中に大金を見つけ、金の使い道を話し合うが、マーチンは母親にキャデラックをプレゼント、ルディは女性二人を抱きたいと言う。
警察はマーチンらを追い、泊っているホテルにまで手が及ぶが、マーチンがルディを人質と偽って、制服とパトカーを奪い、逃げることに成功した。
ギャングは、警官を装ったマーチンらからベンツを返してもらうが、既にトランクに金は無く、フランキーの更なる怒りを買ってしまう。
マーチンらの波乱の逃走劇は続き、奪ったパトカーが故障すると、通りかかった善良なおじさんを騙して車を拝借し、薬が切れて苦しむマーチンのためにルディが銃を使って薬を調達したりするが、警察とギャングの双方から追われる二人は、その両者の板挟みになってしまう。
そして警察とギャングの銃撃戦になるが、何とか逃げ延び、奪った大金を知人らのポストに配って、マーチンは母親にキャデラックをプレゼントした。
ところが実家で待ち伏せしていた警官に逮捕されそうになり、病状悪化したマーチンが倒れて救急搬送されるが、実はマーチンの芝居で、二人は救急隊員らを縛って、またしても逃走に成功する。
ルディは娼館で夢を実現させるが、そこがフランキー経営の店だったため、捕まり殺されそうになったものの、大物カーチスが現れ、二人を逃がしてくれた。
二人は念願の海辺に辿り着き、波打ち際でマーチンが倒れ、ルディはもう薬を飲ませることもなく海を見つめて、エンド。
《感想》余命宣告を受けた男二人が、残された時間をどう生きるか、目指したのは「天国の話のネタに海を見に行く」こと。
死を覚悟すれば怖いものなし、ヤケという気持ちも混じってはいるが、無理に作った目標に生きてみよう、燃え尽きよう、と旅に出る。
動機は深刻なものだったが、その旅は成り行き任せのドタバタで、そのスピーディな展開はB級映画の躍動感に溢れている。
間抜けな悪役や警官ら愛すべき脇キャラを揃え、誰も死なない銃撃戦はあくまで明るく、荒唐無稽でご都合主義満載のコメディなのだが、死地に赴く二人への思い入れからか、身を乗り出してしまう。
そして切ないラストが心に染みる。
二人は海辺に佇み、そこに大きなうねりが押し寄せ、死を受け入れた二人は、寄り添って海を見る。
死を前にして更に前向きに生きる強さ、死を受け入れる勇気、天国の扉を叩く前の心構えが、このコメディに込められている気がする。
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