『ナイト・オン・ザ・プラネット』ジム・ジャームッシュ

人生の夢も悲哀も夜のタクシーに乗せて

《公開年》1992《制作国》アメリカ、イギリス、フランス
《あらすじ》夜のタクシー内で繰り広げられるドラマがオムニバス形式で描かれる。
1)ロサンゼルス:若くてガサツな女性運転手コーキー(ウィノナ・ライダー)は、映画のキャスティング・ディレクターのヴィクトリア(ジーナ・ローランズ)を乗せて、空港からビバリーヒルズに向かう。
車中、コーキーは煙草をふかし、ガムを噛みながら運転し、ヴィクトリアは携帯電話で新作映画の仕事の話をしているが、会話していくうちに打ち解けた雰囲気になっていく。
自宅に到着し、荒っぽいが可愛くて魅力的なコーキーに、ヴィクトリアは映画出演を誘ってみるが、コーキーは車の整備士になるのが夢とその話を断る。
一見ちゃらんぽらんのような女性に堅実な夢と仕事への誇りを語られ、ガッカリしながら、少しうらやましい気持ちのヴィクトリアだった。
2)ニューヨーク:寒い街角で黒人男性ヨーヨーは、東ドイツから来たばかりのヘルムートが運転するタクシーに乗り込む。
ところがヘルムートの運転は超ヘタで道も分からず、ヨーヨーが代わりに運転することになる。
道中、ヨーヨーの義妹アンジェラを拾うが、気の強いアンジェラとヨーヨーは大喧嘩を始め、家族のいないヘルムートは微笑ましく眺めた。
自宅に到着し、ヘルムートはニューヨークへの道筋を教えてもらい帰路に着くが、またしても夜の町をさ迷うのであった。
3)パリ:乱暴で傲慢なコートジボワール出身の運転手イザークは、若い盲目の女性(ベアトリス・ダル)を乗せるが、気が強く態度が大きい客にムッとしたイザークは、「セックスのとき相手が分かるのか?」「映画を観るのか?」と不躾な質問を連発し、女性客はウンザリしながらも一つひとつ独自の価値観で鋭く切り返していく。
客が降車し、タクシーが出発した途端に接触事故を起こす。「盲目か!」と怒鳴られるイザークと、近くで聞いて微笑む女性客だった。
目が見えているから全てが見えるわけではなく、感じること、理解することが大切と教えられる。
4)ローマ:乱暴な運転と人一倍おしゃべりな運転手ジーノ(ロベルト・ベニーニ)は、客として神父を乗せ、せっかくだからと神父の意向も聞かずに懺悔を始め、下品な話を一方的にまくしたてる。
神父は心臓病を患っていて、ジーノの急ブレーキで飲むべき薬を落としてしまい、神父の病状はみるみる悪化し、やがて急死してしまう。
それに気づき動揺したジーノは、神父を引きずり降ろして公園のベンチに座らせ、見開いた目に愛用のサングラスをかけて逃走した。
5)ヘルシンキ:運転手のミカは、酔っ払った3人の労働者風の男を乗せる。
うち酔い潰れた男アキは、会社をクビになり、車を破損し、16歳の娘が妊娠し、妻には家から追い出され、「彼にとって最悪の日」と二人が言う。
促されてミカは自身の不幸話をする。生まれた子が未熟児で1週間しか生きないと告げられ、長くないからと愛情を押し殺していたが、3週間が過ぎなお懸命に生きようとする子を見て、愛情を注ごうと思い直した途端、子どもは息を引き取ってしまった、と話す。
その話に二人は涙を流し、ミカを抱きしめ車を去るが、泥酔し降ろされたアキは雪の残る道端に座り込んだままだった。

《感想》タクシーの中という限られた空間で、客と運転手のダラダラした会話が取り留めなく続き、やがて思いがけない気付きを促される。
ガサツで可愛い女性運転手の夢は意外にも堅実で、運転下手だが真面目な運転手には超親切な客が現れ、横柄な運転手は盲目の女性客に目には見えない大切なものを教えられ、身勝手なおしゃべり運転手に殺される人まで出て、不幸自慢をして我が身の不幸ばかり嘆くな、と。
声高ではなく、シニカルな人情話に滲ませている。
話に繋がりはないのだが、軽い話から重い話へ、甘さからビターな味わいへ、これも人生の成り行きと重なるし、そんな人生のほろ苦さがユーモラスに描かれている。
エンドロールに流れるトム・ウェイツのしゃがれた声がよくマッチして味わい深い。

※他作品には、右の「タイトル50音索引」「年代別分類」からお入りください。

投稿者: むさじー

名画座通いの昔からネット配信の現代まで、温故知新、共感第一、ジャンル無節操をモットーに選んでいます。 何度も、観る度に感動する映画は大切ですが、二度と観たくない衝撃に出会うのも楽しみです。

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